第8章 拘束(14)
「やっぱりけい」
警護が必要といいそうなデイヴィッドの言葉にかぶせて、声を出す。
「とりあえず…宿は? どっか取った?」
そう問えば、デイヴィッドがにっこりと笑う。その笑顔が怖いんだけど。
「あたしたちは別に庭でもいいわよ。マスターを守れるし」
ほら来た。デイヴィッドの言葉にジャックが頷くけど、冗談じゃない。
「勘弁してよ。ここで野宿なんかされた日には、周りの目が痛すぎる。とりあえず駅前のホテルを取るから、そっちでチェックインして」
そう言って、ホテルに電話をして3人分の部屋を取って…追い出そうとしたときに、メアリが再度口を開いた。
「マスター…彩乃様をその男に渡していいんですか? あなたの伴侶にするはずだったのでは?」
今度はこっちが爆弾投下。彩乃と総司の目がまん丸に見開かれた。レイラも眉を顰めた。勘弁してください。
とりあえず、その話は後でと言いくるめて、三人を追い出す。
そして静かになったリビングに戻ってきたところで、ソファに彩乃と一緒に座っていた総司が僕を見上げた。
「俊。さっきのは…どういうことですか?」
「あ…えっと…」
メアリのあれは、完全に父さんとか、おじいさんとかの冗談を真に受けたってやつだ。兄妹や姉弟で一族が生まれると必ず出るジョーク。まあ、半分は本気かもしれないけどさ。
僕はちょっと考えこんだ。ジョークの説明をするのに、そもそも祖父の代からの倫理観の話をしないといけないし、その上、僕にはその気がないってことも言わないといけないし…。
何から話したらいいんだ?
「えっと…そもそも、僕にはその気はないんだけど…一族の結婚観というか、そういうのがちょっと人間と違っていて…」
あ~。面倒くさい。
「まあ、とりあえず古いジョークだよ」
レイラがとがめるような目で僕を見るけど、だったら君が説明すればいい。そういう意味を込めて見返せば、視線が逸らされる。ずるいぞ。
「気にする必要は無いよ。あれはメアリが言ってるだけだから」
僕の言葉に彩乃も総司も納得できないような顔をしつつ頷いた。まあ、僕にその気がないからね。問題ないでしょ。
こうして騒動は終わりを告げた。




