第8章 拘束(12)
同じく翌日。やはりというべきか、来るべきものが来てしまった。ピンポーンと居住区側のインターフォンが鳴り、立ち上がってモニターを見れば、分かっていたとはいえ、ぎょっとする。
カメラに思いっきり近づけて、視界一杯に広がるゴツイ男の顔。
「マスター」
「マスター。無事? 無事なのよね?」
オネエ言葉のごつい男が二人。そして代わる代わるカメラを覗き込んだ二人が離れると、
「若ぼっちゃん。早く開けてください」
おばあちゃんが一人、モニターには映っていた。
このまま…無視したらダメかなぁ。
モニターに映っていたのは、イギリスにいるはずの眷属たち。ジャックとデイヴィッド。それにメアリだった。
渋々ドアを開けたとたんに、デイヴィッドに抱きつかれた。まるで熊のぬいぐるみに抱きつかれたみたいだ。
「マスターぁ。無事でよかったわ~」
「あ~。デイヴィッド? 一ついい?」
「なに?」
僕を離そうとしない腕をそのままに、僕はため息をついてから口を開いた。
「その…言葉遣いはどうしたの?」
ぱっと腕が離れて、頬に手をやった。
「え? マスターが日本に来るなら日本語を学べって言ったじゃない」
あ~。そう言えば僕の護衛に来るって言った二人を断ったときに、そんなことを言った気がする。日本語は英語から考えて構造的に遠い言語だからね。方便に使ったんだけど、覚えていたんだな。
「でもそういう問題じゃなく。言葉が…」
「あたしの日本語、おかしい?」
「いや、おかしいどころじゃないんだけど」
「あたしもデイヴィッドと同じところで習ったけど、おかしいのかしら」
同じく巨体のジャックが渋い声で僕に訊いてくる。
「はっきり言えば、二人ともおかしい。日本語っていうか、言葉遣いが女性言葉」
「えっ? 日本語って女性言葉があるの?」
「あるよ。大有りだよ」
二人して目を見開く。
「うそ~。この言葉遣いが格好いいから、そうしろって教わったのに」
僕はため息をついた。
「それは騙されたね」
「いやーん。今更直せないわ」
と、デイヴィッドが言えば、ジャックは隣で聞くに堪えない悪態をついた。やれやれ。
「若ぼっちゃま」
こっちも綺麗な日本語。っていうか、なんだよ。その若ぼっちゃまって。
「メアリ。君の日本語もなんかヘンだ。っていうか、若ぼっちゃまっていうのは勘弁して」
メアリが軽く目を見開いた。
「とりあえず中に入って」
そう言ってリビングに通せば…レイラが目を丸くした。
「David! Jack! Mary! Welcome to Tokyo!」
「Wow! Layla!」
デイヴィッドが飛び上がって喜んで、レイラと抱き合う。それからレイラはそれぞれと抱擁を交わしていった。顔を合わせるのは久しぶり! だとか、どうしてた? だとか、そういう会話が飛び交う。あ~。もううるさい。




