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第8章  拘束(9)

 しばらくすると出ていった連中が戻ってきたので、もう一度跪くように命じる。さて。ここからが本番だ。僕は自分の乾いた唇を舌で舐める。


「主として、この部屋の中で跪いている眷属に命じる。どこかの山奥に行って、そしてそのまま人に接触するな。吸血行動は許さない」


 そう言ったとたんに、彩乃が息を飲んだ。


「僕はね、妹や友人に酷いことをされて、見過ごせるような甘い性格じゃないんだ」


 男たちが僕を見て、そして不安そうな表情をする。僕の言葉を理解していない彼らに、親切に解説したほうがいいかな。


「つまりね…僕は君たちに飢え死にしろって言ったの。君たちは不老不死になったんじゃない。単に、ちょっとだけ再生能力が強くなっただけ。喜べば? 死ねるよ」


 血を飲まずに生きていられる期間なんて…せいぜい一ヶ月がいいところだろう。


「お兄ちゃん!」


 彩乃が走り寄って僕にしがみつく。


「やめて。やめてよ。そんなの酷いよ」


「酷い? こんなののどこが酷いの? 穏便に殺してあげる分だけ優しいと思ってよ。総司がされたことを考えたら、本当は八つ裂きにしたいぐらいなんだ」


「でもやめてよ。そんなのお兄ちゃんじゃないよ」


 僕じゃない…か。別に彩乃と総司に酷いことをした人間なんて、どうなってもいいんだけどな…。


「じゃあ自分が死んだら、泣く人がいる人だけ生かしておいてあげるよ…。自分が死んだら本気で泣く人がいるなら、そのままここへ残れ。そして自分が死んだら、喜ぶ人がいるやつは…そのままこの部屋を出て、そして山奥へ行け」


 そして思いついて、もう一つ付け足した。


「あ、そうだ…主として命じる。山奥へ行くやつは、僕らに関するものは、すべて焼却しておけ。そして行く前に自分の財産を全部処分して、慈善団体に寄付してから行け。その間にも絶対に吸血行動はするな」


 男たちの顔に衝撃が走る。


「僕が生死を決めるんじゃない。お前たちの今までの人生がお前たちの生死を決めているんだ」


 そうそっけなく言い放てば、男たちの殆どがのろのろと立ち上がって出て行った。教主も一緒だ。


 ふっと気付いて、一人の男を呼び止める。例の注射器を使って血を集めていた奴だ。


「お前。お前だけは残れ」


 男の身体がビクリとなった。僕は紅い眼を向ける。


「動くな」


 そう力を込めて言った瞬間に、男の身体が動かなくなる。そして僕は他のものが出て行くのを見送った。


「お兄ちゃん」


 彩乃が涙声で僕に訴える。


「ダメだよ。彩乃。彼らは僕らの一族になってしまった。このまま生かしておいたら、この後もどんな悪さをするか分からない。僕は全員の保護者になる気はないしね」


 僕は彩乃をまっすぐに見た。彩乃の瞳に僕の怒りに燃えた紅い瞳が映りこんでいる。


「彩乃…あの時代と一緒だ。敵は殺すんだ」


 彩乃の膝が力を失って、ずるずると身体が僕の洋服を掴みながら落ちていく。総司が傍にきて座り込みそうになった彩乃を支えた。


 ふと視線を落とせば、跪いて残っていたのは最初に眷属になった李亮だけだった。のろのろと視線を上げた彼と眼が合う。


「我上有老母。(私には年老いた母がいるんです)」


 彼はそう言った。なるほど。


「你来。(来なさい)」


 僕が言うと、李亮は弾かれたように立ち上がった。


「彩乃、総司、先に行って。船を下りたところで待ってて」


 不審そうな目で僕を見る総司と彩乃を先に送り出す。彼らの足音が消え、気配も感じなくなったところで僕は李亮に向き直った。


「その男の血を…飲んで」


 中国語で伝えれば、李亮と残された男が眼を見開く。


「その男の首筋に唇を当てて」


 李亮がのろのろと男の傍に来た。男は目で李亮の動きを追うけれど、身体は動かせない。


「思う存分、吸うといいよ」


 そう言った瞬間に、李亮の牙が男に襲いかかった。


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