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第4章  お留守番(3)


「まだまだっ!」


 総司が真っ向から打ち下ろす。珍しいな。こういう打ち方するの。とりあえず下から受けてはじく。と、見る間に木刀が横になって、平突きがくる。


 慌てて体を半身にして捌いた。いや~、本当にスピードが半端ないから、困るんだよね~。受けたら普通なら怪我するって。


 そしてまた左から袈裟が来る。僕の受けた力がいつもよりも弱かったらしく、バランスが良かったのか、お互いの力が拮抗して、そのまま硬直状態になった。


「俊」


「何?」


「実は、あなた、結構できるでしょ」


「はい?」


 なんですか? それ。


「私と互角に打ち合えるなんて、そういないですよ」


 うそ~。そういや、沖田総司って言えば、天才剣士とか言われたんだっけ。やばっ。普段、人の稽古なんて見てないから、すっかり忘れてたよ。強いだろうな~ぐらいで思ってたから、うっかり受け続けちゃったじゃん。こんなことだったら、始めのうちに覚悟して一撃もらっとくんだった。


「いや、僕は受けてるだけだし。打ち合ってないし…」


「そこですよ。受けるだけ…打ち込んでこない。でもこれだけ受けられるってことは、打ち込めるはずなんです」


「いやいや、それは買いかぶりだから」


 総司の力がぐっとかかって、僕の木刀が浮いたところで、総司が後ろに下がる。そして木刀を身体の中心で構えた。いわゆる正眼の構え。


「本気で来てください」


「いや、無理。無理だから」


「私を侮辱する気ですか? 自分のほうが強いって」


「いや、そういうことじゃないから」


「じゃあ、本気で来てください」


 うわ~。一体どのぐらいのスピードで動けばいいんだよ。

 これ、勝てばいいの? 負ければいいの?

 っていうか、ごまかせるの?


 もういいや、一発くらおう。うん。それがいい。


「わざと負けようとか、思わないでくださいね」


 よ、読まれた…。


「本気で来なかったら絶交です」


 う、うそ。


 思わず背中に嫌な汗が流れる。


「さあ、どうぞ」


 



 仕方なく僕も正眼に構える。


「いくよ」


 右から袈裟に行くと見せかけて、木刀を振り上げる。総司の木刀もつられて上がったところで、その小手を狙うように剣を下げ、総司の隣に並んだ。すかさず総司が半身で捌こうとした肩に自分の肩を摺り寄せるようにして身体を回し、総司の後ろに入り込みざまに木刀を横に薙ぐ。


 総司の胴を取った形だ。まあ、勢いがないし、気をつけてそっと薙いだから痛くないけど。


「い、今の…なんです?」


 総司からしたら、いきなり僕が接近して視界から消えたと思ったら胴を斬られた感じだろうな。


「体術の応用」


 あっけに取られている総司に答える。


 実は合気道の応用。


 ここで本気のスピードで対応するわけにいかないし、かといって西洋剣術を見せるわけにはいかない。となれば、体術の応用にしておくのが一番無難だと、とっさに思いついた。


 ふぅ、危ない。


 総司は驚いた顔をしてたけど、疑ってる顔じゃなかった。


「今のじゃ、かすり傷にしかならないですよ?」


「だから言ったでしょ。剣術はできないって。僕は逃げるの専門なの」


 がくっと総司が肩を落とす。


「いや、そんなこと堂々と言わないでください」


「いいじゃん、だから総司とか斉藤に教えてもらってるんだし」


「かわいくない弟子ですね」


「弟子なの?」


「弟子ですよ。私、天然理心流塾頭も務めてたんですから」


「へぇ~」


 って言いながら、実はどのぐらい凄いのか、よく分かってないんだけど。


「今のだって間合いに踏み込みすぎだし。一対一だったらいいけど、相手が大勢だったらどうするんです?」


「うーん。どうしようかなぁ」


「いや、どうしようかなぁ、じゃなくて!」


「でも、総司より強いやつなんて、そうそういないでしょ。その総司から一本とったからいいじゃん」


 そう言ったとたんに、総司の目がつり上がる。


「ダメです。根本的に叩きのめす…いや、叩きなおしてあげます」


「い、今、叩きのめすって…」


「聞き間違いです。さあ、やりましょう」


 そういうと総司は木刀を振り上げてきた。


「うわー。勘弁して!」


 思わず、木刀を手放して、僕は走り出す。後ろから総司が追いかけてきたけど、そのまま逃げ出した。いや~、やりあうのも面倒だし、勘ぐられるのも面倒だし。


 もう逃げちゃおう。


 見つからないように、総司の視線が外れたとたんに、僕は走り出した。まあ、人間のスピードに見られるように加減してだけど、並大抵ならついてこられないね。


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