第1章 隊士になります(1)
とりあえずここは正攻法で行こうかな…とか、そんなことを考えた。
「まず、僕たちはあなたたちの敵じゃないです」
「信じられるかっ!」
即答。
ま、そうだよね(笑)
「じゃあ、僕たちが仮に間者で、あなたたちの動きを探りに来たんだったら、こんな目立つ格好してます?」
ちらりと自分の服装に目をやる。ブラックジーンズにラフな感じのシャツ。現代日本では目立たないけど、ここだと目立つ服装だ。
「それに僕たち、そこそこ腕が立つのは、今の瞬間で分かったでしょう?」
「知るか」
あ、そう。
「あ~。一応、言っておくと、我々二人だったら、ここから逃げ出すぐらいのことはできますよ」
土方歳三は苦虫を噛み潰したような顔をしている。正確に言うと、皆殺しして出るぐらいは朝飯前なんだが、それ言っちゃうとケンカになるので黙っておく。
「腕に自信がある人間だったら、こんなところで密偵してないで、それなりに名を売るように戦いの場に行くでしょう。武士として。でも我々の名前、知らないでしょう?」
「てめえは名前自体も言ってねぇよ」
あ、そうだった。
「失礼。宮月俊哉といいます。俊って呼んでください」
沖田総司を後ろ手で羽交い絞めにしたまま、にっこりと微笑んで見せる。女性はいちころになる笑顔と言われるんだが、土方歳三には効かなかったようだ。男だからいいか。
「妹は彩乃」
「はじめまして」
紹介したとたんに、彩乃がかわいらしい声で挨拶する。構えた刀はいつの間にか正眼の構えになっているところが、かわいらしくないけどね。
「そこそこ腕が立つんで、ここで雇いませんか? なんだったら、試してみてもいいですし」
お、考えてる。考えてる。
「それがお前の目的かもしれねぇだろうが」
なるほど。まあ、冷静な読みだよね。
「大体、てめえらはあそこで何してた。敵じゃねぇっていうのなら何者だ」
うーん。困ったな。正直に言うと未来からきた吸血鬼ってことになっちゃうぞ。
「え~っと、僕らは一般的な市民で、その前のことは記憶にございません」
なんか国会答弁みたいになってるな。「記憶にございません」っていうのはある議員さんが昔に言って流行った言葉なんだよ。って知らないか。古すぎてごめん。いや、この時代だと新しすぎてごめん。
僕は自分では面白いこと言ったな~とかって思っていたんだけど、彩乃を含め誰も笑ってくれなかった。
土方歳三は、ぎらりとした目で僕を睨んだ。眼光鋭いっていうのはこういうことを言うんだな。久しぶりにこういう目付きの人を見たよ。本当に久しぶりだ。
僕は一つため息をついてみせた。
「わかりましたよ。僕たちは、妹が生まれた直後に両親が亡くなっていて、それで妹と二人きりで生きてきたんです。僕は先生をしていて、彩乃と二人で家の庭で猫を探していたら、いつのまにかここにいた」
「迷子か。どの辺りに住んでんだ」