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第8章  拘束(8)

 これで目の前にいる連中が一族へと加わったわけだ。あまり歓迎したい気分ではないけれど、仕方がない。


「一族へようこそ」


 僕はそう言って、そして…にやりと嗤った。僕の笑顔に、その場が凍りつく。魅惑の微笑みというには、少しばかり残忍さが出たことは自分でもわかっていた。


 もう迷わない。助かるタイミングをこいつらは逃した。



 まったく単純だね。うまいこと引っかかってくれたよ。そのおかげで、一番残虐度の高いプランは使えなかったってことだ。死ぬほうがマシというぐらいにしてやりたかった僕としては、やや残念かな。まあ、彩乃の前であまり酷い場面は見せたくないし。ま、良しとしよう。


 僕は気持ちを切り替えると、冷ややかな眼差しで一族に加わったばかりの者達を見つめた。


「主として命じる。この部屋にいる眷族よ。跪け」


「なっ」


 一瞬、教主の顔がゆがんで…だけれど身体は逆らえずに、僕の前に跪く。一族になったものは、主としての命令に逆らえない。気持ちでは逆らっても、身体は素直に動く。


 抗いつつも抗いきれずに、無様な音を立てながら、目の前の男たちが跪いた。


 ふと目の端で見たものに気付いて視線をやれば…総司まで跪いていた。しまった。そういえば、彼も眷属だ。危ない。危ない。


「総司、君はこの部屋を出るまで、僕の命令を聞かなくていい。主として総司に命じる。この部屋を出るまでは僕の命令を聞くな」


 そう言った瞬間に、総司は糸が切れようにガクンとなって、そして立ち上がった。


「い、今のは何ですか?」


「それは後で説明するよ。それより総司、身体は大丈夫?」


「ええ。なんとか…戻ったようです。痛みもほとんどないです」


「そう。良かった」


 そんな短い会話の後で、僕は視線を総司から自分の目の前に並んだ男たちにやった。


「まずは…主として命じる。僕のチェーンの鍵を持ってるやつ。解け。それから檻の鍵を持っているものは、彼らを解放しろ」


 そういうと、二人の男が立ち上がって、ぎこちなく歩いてきた。嫌なのに、身体が逆らえないというところだろう。


 僕のチェーンが外されて、そして彩乃たちの檻も開かれる。僕は伸びをした。ぱらぱらと撃たれたときの銃弾が落ちる。すでに傷は塞がっているけど、まったく。いい迷惑だよ。


「今回の件を知ってるのは? これで全員?」


 返事がない。


「主として命じる。僕が訊いたことは素直に答え、やれといわれたことは素直にやれ」


 命令の大盤振る舞いだ。


「それで? もう一回聞くよ。今回の件を知ってるのは? これで全員?」


「ぜ、全員だ…」


 教主が口を開いた。他の男たちも頷く。


「ふーん。じゃあ、後腐れなくていいねぇ」


 僕はまたにやりと嗤った。僕の目が怒りで、どんどん紅くなっていくのを感じる。


「もう一つ質問だ。僕らのことを記したものは、どこにある? 誰が持っている?」


 皆の視線が、注射器を持って血を集めていた奴のところに集まる。


「今、持っているなら出して」


 僕は紅い目を彼に向けた。そいつはびくりと身体が硬直し、そしてフラフラと内ポケットへと手が伸びて、手帳とメモリチップを取り出す。それらを受け取って、さらに僕は命じた。


「すべてのデータの完全な消去と、破壊をしてきて。今すぐ。そしてここへ戻ってきて。ああ。そうだ人手が必要なら、その辺にいるのをつれていくといい。ただし、データ消去以外の余計なことはしないこと」


 そう命じると、数人が部屋を出ていった。


 手元に残された手帳をぱらぱらとめくれば、総司に対する実験計画と、この後の僕らの扱いについてのメモが記されている。怒りを通り越すぐらいに酷い。


 まあ今のところ、どうやら総司は血液と皮膚と脂肪の一部が採取されただけらしいから、まだ良かった。この後は生きたまま僕と総司の腹を切り裂いて、内臓を取り出したりするつもりだったらしい。彩乃にも酷いことが書かれていて、人間っていうのは本当に残虐になれるものだと呆れた。人外の僕らより考えることが酷いじゃないか。


 僕は一瞬考えてから、手帳とメモリチップを自分のポケットに入れた。


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