第8章 拘束(6)
手順はいいはずだけど、何が足りないんだ? 一瞬考え込んでから思い出した。もう一つのキーだ。
「彼を僕の傍に」
一人が李亮を僕の傍に引き寄せた。そして耳元で彼が理解できるように、名前から判断して中国語で語りかける。----君も強い肉体と、パワーは欲しいよね? ずっと若さを保っていられる。誰よりも強くなれるよ----と。
人間なら誰しも持っている望みだ。それを、そっとくすぐってやる。
ごくりと李亮の喉が鳴った。かかった。
そしていつもの衝撃が始まる。李亮の身体がガクガクと震え始め、僕の中をすさまじい力が抜けていく。やがて…それは唐突に収まった。
「終わったよ。その男に傷をつけても、すぐに治る」
僕がそれだけを伝えると、ナイフを持った一人が李亮の腕にナイフを突き立ててから抜いた。李亮が悲鳴を上げる。血が滴って…そしてついたばかりの傷口が見る見る間に塞がっていく。
「わかったでしょ? 僕の目の前にいないとダメなんだ。だから…不老不死になりたいのならば…本人がこないとダメだ」
男たちがお互いに視線を交わして、そしてニヤリと笑った。僕はすぐに付け加える。もちろん悲痛な面持ちで。
「総司や彩乃にこれ以上手を出したら、僕は自分が殺されても協力しない。彼らに手を出さないなら、大人しく協力する」
「わかった。二人には手を出さない」
「あと…僕を気絶させてから、どのぐらいの時間がたっている?」
男たちが怪訝な顔をした。だが僕がじっと相手を見ていると、そのぐらいの情報なら答えてもいいと思ったのか、2時間と言われた。
「警察に知らせても無駄だ」
「そんなことはしていない」
…時間が過ぎれば、警察なんかよりも恐ろしいものが来る。応援部隊としてやってくる一族が集まったら、本人たちが気づかないうちに殺されて影も形も消えてなくなる。
しかもただ死ぬだけではなくて、死んだほうがマシだと思うぐらいの目にあってから、僕らに食い尽くされることになるだろう。
正面の男が探るように僕を見ていたが、何も見つけられなかったのか、軽く頭を振ると足早に出ていった。
ま、彩乃たちに手を出さないなんていうのも、どうせ口だけの約束だろうけどね。目的を達したら僕らを皆殺しにするか…そんなところだろう。それでもとりあえず二人の安全が一時的にでも確保されればそれでいい。
僕をここに連れてきた男たち二人と…そして床にしゃがみこんだままの李亮が残される。
半日か…一日か…。その教主がくるのが早いか、レイラが引き連れてくる一族の応援部隊が早いか…。




