第7章 視線(4)
ピンポーンと居住区側のインターフォンが鳴った。映された画像を見れば、すらりとした足をホットパンツから出し、大きく胸元の開いた服を着たナイスボディの金髪の美女で…レイラだ。
午前中の柔らかい光の中でドアを開ければ、緑の瞳が笑みを作り、チュッと彼女の色っぽいホクロつきの唇が僕の唇を掠めた。ま、彼女にしてみたら挨拶だろう。スポーツ用の大きなバッグと、背中の大きなザックを持って入ってくる。
「何? これ?」
「機材」
短く答えたかと思うと、ダイニングに入り込んで袋から出す。それを僕は黙って見ていた。まずは手のひらに入るぐらいの黒い塊と、アンテナを持って、頭にヘッドセットをはめて歩き始める。多分盗聴器の電波を拾うんだろう。
家の中を練り歩いて、ダイニングに戻ってきたところで、レイラはヘッドセットを外して、金髪のゆるいウェーブのある長い髪を掻き揚げると、ふぅっとため息を吐き出した。
「大丈夫。家の中に盗聴器は無いみたい。でもちょっとノイズを拾ったから教会にはあるかもね」
まあ、そこは予想の範疇だ。
そして彼女は持ってきた機材を組み立て始めた。ちょっとした金属の塊が出来上がる。
「この家を狙ってるカメラを見てきたけど、無線で飛ばす奴だし、そこから先はなんからのネットワークを使ってると思うのよね。まずはその辺りから攻めてみるわ。ついでにこれらが取り付けられたのは、4月の半ばぐらいみたい」
さらりと言うレイラの言葉にひっかかりを覚える。
「いつからカメラが取り付けられたなんて、なんで分かった?」
レイラはひょいっと肩をすくめた。
「カラスに聞いたから」
あ~。彼女の能力だ。彼女は動物や鳥と話をする。どうやらその感覚で、ネットワークとも話をしているんじゃないかと、僕は睨んでいるんだけどね。
「ちょっと時間がかかりそうだから…悪いけど、ここを占拠するわよ」
「はいはい」
組みあがった金属の塊に電源を入れて、待つことしばし。レイラが口を開いた。
「心あたり、ある?」
「無いね。狙うなら僕だろうけど…こうも正面切って喧嘩売ってくるっていうのが、ね」
レイラがため息をつく。
「そうよね。あなた、一族きっての武闘派ですものね」
思わず眉を顰めてしまった。
「ちょっと待ってよ。こんなに穏便な僕を捕まえて、武闘派って何?」
「言葉の通りだけど? 自分のことを知らないって怖いわね」
「ちょっと」
「はい。邪魔だからどいて」
僕を無視してダイニングの椅子に座り込んで、レイラは作業を始めてしまった。僕は言い足りない気持ちを抑えつつも、レイラの邪魔をしないようにして、自分の部屋へと引っ込もうと階段に足をかける。そこへレイラの声が追いかけてきた。
「ねぇ。彩乃は?」
「あ~。デート中。一時間ぐらい前に出かけたよ」
「デート?!」
レイラの声に驚きが混じる。何驚いてるんだか。まったく。
「一体、前に彩乃と会ってから何年経ったと思ってるの。恋人ぐらいできるよ」
ぼくは投げやり気味にそう伝えて、唸るレイラを置いて階段を登っていった。




