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第7章  視線(2)

 そして…なんというか環境っていうのは慣れるもんだ。うん。


 数日間、総司と彩乃の甘い雰囲気に晒されていた僕は、慣れた。彩乃と総司が甘い会話をしても、聞こえないふりをするのが得意になってしまった。あれかな。数年前に言われたスルー力って奴がついたってことか?


 いや、ちょっと違うな(笑)


 彩乃は大学に行き、総司はその迎えに行った。多分、夕飯ぐらいまで帰ってこないだろう。いつものプチデートだ。


 穏やかな午後で、教会の前を箒で掃きながら周りを見回すと、初夏の空気が漂いだしていた。五月も半ば。いい天気だな~と思って視線を上げた先に、ソレはあった。


 思わず見てしまってから、見えなかったふりをして視線を降ろす。


 多分、かなり長距離で狙っているから、僕が見つけたことに気付いてないとは思うんだけど…今、一瞬だけ視線をやってしまった。


 数本先の電信柱からこちらを覗く小型カメラ。誰が? 何のために?


 僕は表面上の雰囲気を変えないようにしながらも、考え続けた。やや俯いていた顔を上げて、暢気に伸びをしているように見せながらぐるりと反対側に視線をやれば…同じような距離のところにこちらを向いたカメラが設置されている。明らかにこの教会の出入り口を狙っているとしか思えない。


 もしかして…と思って、僕はそのまま箒で家の周りを掃く。これはいつも通りの行動だから問題ないはず。ぐるりと回って見つけたのは、うちに向かって取り付けられたカメラが6台。


 素人にしては手が込みすぎている。もしかして…教会堂の中にも盗聴器があったりするかも?


 急に背筋が冷えて、僕は家の中に入ると買い物に行くようなふりをして、財布と携帯電話を掴んで外に出た。車に乗り込みつつもすばやく辺りを見回した。見張りはいない…と思う。僕に見つからずに張り付いているならよっぽどの凄腕だ。


 ただし原始的な張り込みならともかく、電子機器を使われていたら、さすがの僕でも分からない。機械はほとんどの場合、匂いも音もしないからね。彩乃なら近づけば気づくかもしれないけど。


 車を走らせつつもバックミラーでチェックをする。白い車がちらちらと2台後ろに見えた。さりげなく車線変更をすると、同じように車線を変更してきた。これは振り切るべきだろうか。いや。だが、付いてきていることに気づいていないふりがいいだろう。


 そんなことを考えながら右折していけば、白い車は直進していった。思わず大きく息を吐く。


 しばらく車を走らせて着いたところは、買い物客がにぎわうショッピングセンター。この車をつけてくる車は無かったと思いたい。あの後も、ちらちらとバックミラーは気にしながら走ってみた。


 まったく車というのは厄介だ。人間がこっちをじっと見ていれば視線を感じることもあるけれど、車自体を尾行されたら僕自身は視線を感じない。


 とにかくこの中にいても仕方がない。第一車にも盗聴器がついている可能性もあるわけだ。こういうときには、盗聴器とかカメラとかを発見する能力が欲しいよね。


 車を置いて、ショッピングセンターに入るとエレベーターに乗って屋上に出る。子供たちが暢気に屋上の乗り物に乗っているのを横目で見ながら、人気が無いほうの手すりへと近づいていった。


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