第4章 お留守番(1)
昔、いや、今からだと未来になっちゃうかな。
夏目漱石が学生に「I love you.」を訳しなさいと言って、学生が「我、汝を愛す」と訳したところ、「日本人は、そんなことは言わない。それは『月が綺麗だなぁ』と訳すのだ」と授業をしたらしい。
いや~。現代だったら無理だね。
「月が綺麗だね」とか言われたら、絶対に「うん」って返事して終わりだねwww
昔の人の感性が豊かだったのか、それとも現代人の感性が鈍ったのか。
直接言われないと、分からないことは分からない。
まあ、直接言われても分からないこともあるけど…。
本日は陽気もいいので、僕は部屋でごろごろしていた。
またしても縁側には総司と彩乃がいるらしく、二人の会話が聞こえてくる。
「えっと…彩乃さん、こうして二人で見ていると空が綺麗に見えますね」
「そうですね。いい天気ですよね」
ぷっ。総司…無理、それは無理。通じないよ。
しばらくしてまた総司が言う。
「最近になって思ったんですけど、剣が強い女性っていいですよね」
「え! 本当ですか? 総司さんもそう思います? うれしい~」
彩乃の無邪気な声が続ける。
「わたしも剣道…えっと、剣を習うときに、お兄ちゃんから一杯話を聞いたんです。巴御前とか。昔は、女武芸者と呼ばれる女性がいたんですって」
「はぁ」
「総司さんもファンなんですね!」
「ふぁん?? ですか」
「はいっ」
ファンって英語だから。ここでは通じないよ。
「えっと、彩乃さん」
「はい」
「私はあなたときちんとお話をしたくて」
「え? あ、正座したほうがいいですか?」
「いや、そうじゃなくて…」
「え? じゃあ、こんな縁側じゃなくて、どこかのお部屋とか、きちんと」
「いや、そうじゃなくて…」
「大切なお話だったら、お兄ちゃんにも聞いてもらったほうがいいですよね」
「いや、それだけはやめてください」
総司…がんばれ~(笑)
「もっと彩乃さんのことを知りたいと思って」
「わたし…ですか」
彩乃が不安そうな声を出す。
「あなたのことをもっと知りたいんです」
「何も無いですよ。わたしを知っても、面白いことないです」
彩乃の声が硬くなる。泣きそうな声だった。
「あ、いや、詮索しようとか、そういうことじゃなくて…」
「信用できませんか」
「いや、そうじゃないんです。あなたのことも知りたいし、私のことも知ってもらいたいし」
間があく。
「沖田総司さんですよね」
「はい」
「わたし、あなたのこと、知ってますけど…」
「いや、そういう意味じゃなくて。こうなんていうか、私のこと、どう思いますか」
「総司さん…ですか? えっと~。優しくて…。でも剣は強くて…」
ぽんっと手を打つ音がする。
「うん。今はお兄ちゃんの次に好きですよ?」
「…」
「総司さん?」
「お兄さんの次ですか?」
「はい! お兄ちゃんは一番です。だって家族ですから」
照れるなぁ。
いや、そうじゃなくて…。
「お兄さんよりも一番になれませんか?」
「なりたいんですか?」
「私は男ですから」
「え? そうですよね。総司さんは男の人ですよね。女の人に間違えたことありませんよ?」
「…」
「どうしたんですか?」
総司の大きなため息が聞こえる。
「えっとですね。私はですね」
その瞬間に、ぱっと彩乃が立ち上がる気配がする。
「ごめんなさい! わたし、お台所に行かなくちゃいけないのを忘れてました!」
ばたばたと走り去っていく音が聞こえた。
もう一回、総司が大きなため息をついた。




