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間章  旅行 2日目(3)

「彩乃?」


「総司さん…わたし…もう二十歳超えているよ? …大人だよ?」


 そう。十八歳であの世界に行って五年経って、そして戻ってきた。外見がほとんど変わらないから…みんなはあの時のままのわたしと思っているけれど、それでもわたしの中で時計の針は動いている。


「大丈夫。昨日は…経験したことがないから、ちょっと怖かっただけ。今日は…ちょっと恥ずかしかったから…緊張していただけ…」


 そう小さな声で呟いた瞬間、総司さんの両手がわたしの顔を包んで、熱い口付けが襲ってきた。唇を重ねたとたんに、舌が口の中を這い回っていく。歯茎を舐めて、口の上側を舐められて、舌を絡められた。キスだけで息が上がりそうになる。


 総司さんって名前を呼びたいのに、彼はしっかりとわたしの頭の後ろを手で押さえてつけて、唇を離してくれない。喉の奥のほうまで舌が入ってきて…わたしはぼーっとし始めた。


 舌の動きだけで、こんなに気持ちよくなっていくなんて…。昨日までは知らなかった感覚に、身体が敏感になっていく。ようやく唇が離れたときにはもう力が入らなくて、そのまま総司さんの手でベッドに横にされた。


「可愛いことを言うから…もう歯止めが効かない」


 総司さんが熱い目をしてる。真剣で…ちょっと怖い目…。


 ふと思った。あの総司さんを投げ飛ばしてしまった時の目と同じ。あの時代の壬生寺で…わたしにキスをしようとしたとき。欲情に染まった目…。わたしを欲しいと言っている目だったんだ。わたしは、そんなことに気付かなくて…ただ怖いと思って…。


 思わず笑ったら、総司さんが怪訝な顔をした。


「彩乃?」


「ううん。わたし…子供だったなって思って」


「どういう意味?」


 うまく説明できないから、誤魔化すように「なんでもない」と言ってみた。それから総司さんに向かって両腕を伸ばす。


「好き。総司さん。好き。愛してる…」


 両手をゆっくりと彼の背中に回す。そして耳元で囁いた。


「…だから…総司さんの好きにして…」


 総司さんは一瞬、驚いたように目を見開いて…そしてきつく抱きしめられた。そこから先は昨日と同じ。ううん。昨日よりももっと総司さんを身近に感じた。



 どうして『好き』と『愛している』以外の言葉がないのかな。


 もっと、もっと好きなのに。自分の中でいっぱいに膨れている気持ちを、なんて表現すればいいの?



 朦朧とした意識の中で、気持ちを伝える。


「総司さん…凄く…好きなの」


「知っている」


「凄く…愛してるの」


「彩乃、煽らないで。我慢できなくなる」


 わたしは、くすりと笑った。


「煽ってないよ。気持ちを伝えたかったの」


 こつんとおでこをぶつけられる。


「それを煽るっていう」


「そう?」


「そう」


 総司さんがわたしをじっと見てから笑った。


「す…き…」


 総司さんの匂い。わたしが好きな人の匂い。好き。好きなの。




 気付くと総司さんの腕の中で、わたしは彼の心臓の音を聞いていた。


 安心する…。


「彩乃?」


「ん…」


 甘えるように彼の胸に頬を摺り寄せれば、優しい手が頭を撫でてくれる。


「総司さん…好き」


 総司さんの耳元に囁く。


「好き」


 うわごとのようになってしまう。うまく口が動かない。眠いの。でも伝えたい。


「す…き」


 眠くなって…。


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