間章 旅行 2日目(1)
------ 彩乃 side ------------
京都の二日目。
初めて入る御所の中。待合室で時間まで待つと、案内の人につれられて同じ時間に申し込んだ人達が一つのグループとして、ゆっくりと周り始めることになる。
「凄い…御所の中です」
総司さんが呟いた。
中は平安時代から抜け出してきたみたいな感じ。大きな車止め。っていっても、牛車が止まるための場所なの。純日本風の素敵なお庭。
総司さんと二人で見とれながら、わたしは一生懸命写真をとって…そして総司さんとも一緒に写真をとってもらった。
御所をゆっくりと見学して北側から抜けて、それから会津本陣があった金戒光明寺を目指すんだけど、ちょっとだけ遠回りをした。
川の傍、ひとけがない遊歩道。哲学の道。どこもかしこもコンクリートで舗装されていて…それでも東京よりは緑が多い。
「本当に変わってしまった…」
その言い方が寂しげで…。わたしの中に不安の影を落とす。
「総司さん」
わたしの指先に絡まった総司さんの指。でも指だけでは心もとなくて…。
「総司さん…帰るって言わないでね」
思わずもらしてしまった言葉。総司さんの目が丸くなる。
見つめ続けていることはできなくて…わたしは目を伏せた。
「あの時代に、帰らないで」
わがままで、ごめんなさい…。でも…。
「彩乃。もう私は帰れないし、帰らない」
わたしが顔をあげると、総司さんは穏やかに微笑んでいた。
「もうあの時代での役割は終わった。新撰組の沖田総司は労咳で死んだ」
わたしは目をぱちぱちと瞬くと、総司さんはぎゅっとわたしの手を握り締めた。
「ここにいるのは、ただの沖田総司…」
そう言ってから、ちょっと考えるように総司さんは視線を上に向けた。
「いえ、一族に加わってしまったから、ただのって言うのはおかしいかな?」
「総司さん…」
「一緒に生きましょう。この時代で。この時の中で」
「うん」
「約束したでしょう? 一生、あなたを守るって」
「うん…」
思わず涙目になったら、総司さんが困ったような顔をして、わたしの涙を優しくぬぐってくれる。
「もう。どうして益々泣くかな」
「だって…」
「泣かないで。彩乃。一緒にいるから」
「うん」
我慢できなくて総司さんの胸に飛び込んだ。総司さんはびっくりしながらも、わたしを支えてくれて、そして優しい手がわたしの頭を撫でていく。
「彩乃。彩乃とだったら、長い時も生きていける」
「うん。わたしも…」
ぎゅっっとしがみついていたら、そっと総司さんの手がわたしの顎にかかって、顔を持ち上げられて…そして温かい唇が降りてきた。思わずうっとりとその唇に応えていたところで、後ろから声が聞こえた。
「お母さん! あそこでチューしてる!」
「見るんじゃありません!」
慌てて総司さんと離れて、二人して真赤になって…。視線を交わした。
やっちゃった。
見られてしまいました。
そんな会話を目だけでして、二人して吹きだした。だって総司さんの顔は真赤で…多分、わたしの顔も真赤で。なんか恥ずかしくて、でも一緒にいることが嬉しくて。
「行きましょうか」
総司さんが差し出した指に、自分の指を絡める。
「はい!」
わたしたちは元気に歩きだした。




