表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
376/639

間章  旅行 1日目(10)

--------- 総司 side --------------


 腕の中に眠る彩乃を夢のような気持ちで見ていた。彩乃に出会って、惹かれて、一度は諦めて…。しかし再び出会って。このような状況になって、このように想いを遂げることができるとは思っていなかった。


 絹糸のような手触りのいい髪を撫でていたら、不意にぱちりと目を見開いて彩乃が顔を上げた。そして私をじっとみる。その目つきは先ほどまでとは違い、探るような、試すような目つき。


 そして私は思い当たった。


「リリア…」


 名前を口にすれば、目の前で唇の両端が上がった。顔は同じ。姿もそのまま。しかし雰囲気がまったく違う。


「よく分かったね」


 同じ声なのに、声の出し方が違うだけで別人のようだ。俊の言葉を思い出した。


『彩乃もリリアも僕の妹だ』


 どうすれば正しいのか…なんて分からない。


「ちょっと、離してくれる?」


 リリアが腕の中でもがいた。それに逆らうように、腕に力をこめる。


「嫌です」


「ちょ、何考えてるのさ。あんたは彩乃の彼氏でしょ」


 じっと見つめれば、戸惑うように視線が逸らされた。


「あたしは、彩乃とは違うんだから」


「何故?」


「同じ身体でも、あたしと彩乃は別人なの」


「あなたは…俊の妹ですよね」


「そうだけど…それとこれとは別」


「私が好きになったのは、俊の妹で…いろんな顔を持ってるって思ってはいけませんか」


 そう言ったとたんにリリアの目が見開かれた。


「あんた、あたしと彩乃を一緒にしようっていうの?」


「一緒にというか、両方を私の恋人として受け入れようとしているだけですよ」


「そ、それって最低じゃん」


「そうですか?」


「だ、だって…彩乃が好きなんでしょ? あたしは彩乃じゃないもん」


「両方の部分を好きになってはいけない?」


「えっ?」


「表面は弱そうに見えるのに、内面は強い彩乃。表面は強そうなのに、内面が弱いリリア。私からは表裏一体に見えます」


「な…」


 私は間髪入れずにリリアに口付けた。


「や、やめて…」


 そう言いながらも、私の腕を振り払えない弱い抵抗に笑ってしまった。多分、そう。分かっている。リリアの中にいる彩乃。彩乃の中にいるリリア。両方とも私の恋人だ。だから私は強気に出た。


「大丈夫だから。私を好きになっておきなさい」


 リリアの目が見開かれて、そして泣きそうな表情になった。


「だって…彩乃の彼氏なのに」


「嫌?」


「ダメ…じゃないの?」


「何故?」


「だって彩乃とあたしは違うから」


「違うから問題がある?」


「だって…あたしは…」


「私を好きになれない?」


 そう言ったとたんに、リリアが首を左右に振った。


「でも、ダメだよ」


「何故?」


「彩乃の彼氏でしょ」


「あなたの恋人でしょう」


 リリアの目が見開かれて、私をじっと見てくる。


「あなたは彩乃でもあり…リリアでもある…違う? あなたの両面を好きになってはいけない?」


 リリアの目に水滴が浮かぶ。それが正解かどうかなどわからない。しかし今日のこの日を決めたときに、私の中にこの覚悟もあった。


「大丈夫。まとめて受け入れる。それぐらいの度量はあると思う」


「うん…」


「どんなあなたでも好きだから。あなたはあなただから」


「うん…」


「寂しかったでしょう?」


 そう言ったとたんにリリアがしがみついてきた。


 まるで子供のような姿を晒してくれたことに、思わずほっとしつつ背中に回した手で、ぽんぽんと優しく叩く。


「リリア」


 名前を呼んで頤に触れながら顔を上げさせて、もう一度口付けた。


 口付けに応えるおずおずとした不器用な舌使いが、彩乃との初めての深い口付けを思い出させた。そして漏れる吐息や、しがみついてくる仕草は同じもので、同一人物であることを改めて印象付ける。


「あなたを…手に入れていい?」


 そう問えば、リリアは真赤になった。


「そ、そういうことは聞くもんじゃないでしょっ!」


 耳元で怒鳴られる。


 私は思わず笑ってしまった。


「じゃあ、聞かない。あなたも手に入れる」


「欲張りっ!」


「そうだよ。知らなかった?」


 何かもっと言いたそうな唇を、深い口付けで黙らせた。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ