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間章  旅行 1日目(6)

「彩乃さん?」


「はっ、はいっ!」


 コンコンってユニットバスの扉を叩かれた。


「大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫ですっ!」


 そう答えて、今日来ていた洋服を持って出れば、総司さんがにこっと笑ってくれた。


「遅いから…心配しちゃいました」


「だ、大丈夫です」


「じゃあ、私もシャワーを浴びてきますね」


 そう言って、入れ違いでユニットバスに総司さんが消える。凄く落ち着いてる。ど、どうして普通にしていられるの? わたしはどんどん頭が混乱してきているのに…。


 とりあえず洋服を片付けて…そしてベッドに目をやって…ダメ。ベッドに近づけない。ユニットバスのドアの前で立ち尽くす。


 えっと。えっと。どうしよう。えっと…。とりあえず洋服を置いてみる? 持ってきたバッグの中に入れて…。


 そこでまた立ち尽くしたわたしは、後ろからきた腕に絡み取られた。


「彩乃さん?」


 そう。こんなことをするのは一人しかいないの。振り向かされたと思ったら、温かいものが唇を覆う。総司さんの唇。そして背中に回される腕。


 条件反射のようにわたしも総司さんの背中に腕を回せば、唇を割って彼の舌が口の中を動き回る。おずおずと舌を動かせば、すぐにそれは絡め取られた。息をするのが苦しくて…ぴちゃぴちゃという水音が恥ずかしくて…ぼーっとしているところを、そっと抱えられたまま、ベッドに腰を下ろす。


 そのまま横たわるように押されて、気付いたときにはベッドの上で、総司さんの顔がわたしを覗きこんでいた。


「彩乃さん」


 そう呼ばれて返事をしようと思ったら、またやさしい唇が落ちてくる。ちゅっ、ちゅっ、と音をさせて軽いキスをしながら、総司さんの大きくてやさしい手がわたしの頬を包んで、そして首筋を撫でる。


 いつのまにか唇が頬をたどって、首筋をたどっていた。


「そ、総司さん…」


 震えたくないのに、震えてしまうわたしの声。総司さんが唇を離して、わたしの顔を覗きこんだ。


「怖いですか?」


 凄く熱い視線。やさしく微笑んでいるけど、でも瞳の奥に見えるのは、違う感情。獰猛なものが見える。食べられてしまいそう…。


「こ、怖く…ない…です」


 本当は怖いの。でも…。総司さんは、その感情を読み取ったように笑みを深くした。


 そしてわたしの手をとる。総司さんはバスローブを着ていて、はだけた胸元にわたしの手が総司さんの手に導かれて入り込んでいく。


「私も緊張しているんですよ」


 そういわれて、心臓の上に手を置かれれば、早い鼓動。自分のことに精一杯で気付かなかったけど、耳を澄ませば聞こえる心音。わたしのも総司さんのも少し早い。


 少しほっとして、ぺたりとつけた手の先から伝わる総司さんの熱にも気付いた。


「温かい…」


「ええ。彩乃さんも温かいです」


「ん」


 総司さんの胸に両手をつければ、温かさが広がってきて、そのまま肩に手を回していく。生きてる…。総司さんは生きてここにいる。


「総司さんは…ここにいますね」


 そう言ったとたんに、総司さんの目が見開かれて、そして微笑んだ。


「ええ。いますよ。彩乃さんの傍に」


 総司さんが優しく言って、また口付けが落ちてくる。


「好きなだけ触ってください」


 そう言って総司さんは、ぱさりとバスローブを脱いでしまった。


「それから…私にも彩乃さんがここにいることを感じさせてください」


 そしてわたしのスウェットの裾に手をかける。ちょっと躊躇したけど、身体をずらせば、それは簡単に頭から脱げていってしまった。ぎゅっと抱きしめられて、総司さんの肌が直接触る。


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