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間章  旅行 1日目(4)

 そしてたどり着いた壬生寺。えっと…。綺麗になっていた? 綺麗って言っていいのかな? 


 コンクリートで歩きやすいように整備されて、砂利が敷かれていて…。しかもなんか変な塔ができていた。あちこちのお地蔵様みたいのを集めて作った塔だって。


「ここも変わりましたね」


 そう切ない表情で言う総司さんに、わたしはますますしがみつく。


「彩乃さん、なんかありますよ。壬生塚ですって」


 そういう総司さんに引きづられるように歩いていけば、小さなプレハブ立てみたいなところを通って、お金を払う。それから外に出て…なんか石碑みたいのが立っているけど…ここ何? 顔をあげれば、見たことのある顔があった。


「これ…近藤さんですよね?」


「そうみたい…ですね」


 そこには新撰組隊士が祭られていて、近藤さんの胸から上の像があった。


「お久しぶりです」


 総司さんが挨拶する。


「こんなところで会えるとは思いませんでした」


 そう言う総司さんの声は静かで…。


「私は遥か未来。こんなところまで来てしまいました」


 そう言う総司さんの表情が泣きそうで…。


「もう、武士はいないそうですよ。近藤さん」


 総司さん…。


 しばらく総司さんは近藤さんの像をじっと見ていて、そしてわたしに笑いかけた。


「行きましょうか」


 静かに変わってしまった壬生寺も後にする。ふらっと総司さんの足が西に向かう。


「総司さん?」


「ついでに…光縁寺に寄っていいですか?」


「はい…」 


 壬生寺から西へ数分歩けば、光縁寺と書かれたお寺に行き当たる。門前にある「新撰組の墓」という文字。普通の墓地の奥に、それはあった。


「山南さん…」


 総司さんがしゃがみこむから、わたしの腕は解けてしまった。そして総司さんは、そっと手を合わせる。


「私が…斬ったんです」


 小さな声。


「総司さん?」


「山南さんの切腹の介錯、私がしました」


「うそ」


「本当です。山南さんは、彩乃さんと俊が出て行った後、しばらくしてから脱走したんです。そのまま逃げれば良かったのに、途中で待っていて、わざわざ私に捕まるんですよ。そして切腹の介錯をしてもらいたいって頼まれて」


 その表情は淡々としているけれど、その痛みを感じてしまう…。


 どうしたらいいの? 


 総司さんが山南さんのことをお兄さんのように思っていたことを知っているのに。


「もう150年以上も前のことなんですね」


 ぽつりと言う総司さんの顔を見ていられなくて、わたしは総司さんの横にしゃがみこんで両手を合わせた。


「神様。山南さんが天国に居ますように。そして平安を得られていますように。総司さんがこれ以上痛みを感じなくてすみますように。そしてわたしたちが…幸せでいられるように見守っていてください。この祈り、主イエスキリストの御名によって御前に捧げます。アーメン」


 そう早口で祈ったとたんに総司さんが吹き出す。


「彩乃さん、お寺でそのお祈りは…」


「えっと…ダメですか?」


 お祈りなんてお兄ちゃんに教えてもらったのしか知らないから…。自分にできることをしようと思ってやったんだけど…。


 わたしが不安そうに総司さんを見ると、総司さんがちょっと考え込んだ。そして笑う。


「まあ、いいんじゃないでしょうか」


 良かった…。わたしもにっこりと笑う。


「いいですよね」


「はい」


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