間章 旅行 1日目(3)
最初に来たのは屯所跡。八木邸と前川邸。前川邸は中には入れず、八木邸は観光地になっていた。周りは変わっていたけど、所々変わっていないところも残っている。
総司さんは入れる場所の柱や壁に触って、月日を確かめているようだった。その横顔は切なくて…今にも150年前に帰ると言い出しそうで…思わず怖くなって、総司さんの腕に手を伸ばす。
「彩乃さん?」
やさしい総司さんの声に勇気を貰って、ぎゅっと腕にしがみつく。そのとたんに総司さんが慌て始めた。
「だ、ダメですよ。はしたないです」
わたしはその声を聞いて、ますます離れたくなくて、しがみついた上に顔もくっつけた。
「あ、彩乃さん…」
弱りきった総司さんの声。屯所よりもわたしに意識が向いていることに嬉しく思うなんて酷いかな。
「大丈夫ですよ。これぐらい。みんなやってます」
周りを見れば、手をつないだり、腕を組んだり。普通にやっているもの。
「で、でも…」
「ダメですか?」
そういって、しがみついたまま総司さんを上目遣いで見上げれば、総司さんが頬を赤くする。
「それは反則です」
わたしは意味がわからなくて首をかしげたけど、でも腕は振り払われなかったから、そのまましていた。
中に入るとボランティアの人かな? 新撰組の説明をしていたけれど、わたしたちはぐるりと小さな部屋の中を見て、鴨居にできた刀傷を見つける。総司さんが何かを思い出したように、すっと目を細めたけれど、わたしは何も聞かなかった。
ゆっくりと見て、そしてそのまま壬生寺へ歩く。あのときに、二人でよく通った道の両側には家が立ち並んでいたし、足元はアスファルトで舗装されている。田んぼの畦道にあった用水路は、コンクリートで固められて排水路になっていた。
「変わってしまいましたね」
「はい」
総司さんの言葉に答えながらも腕は放さない。
「あの彩乃さん…」
「はい」
「あの…当たってます…」
「はい?」
なんか言いにくそうにしている総司さんの顔を見れば、ほんのり赤くて…。
「あの…胸が…」
そう言われて、わたしも一瞬「あっ」って思って…離れかけて…。でもすぐにさっきの総司さんの横顔を思い出した。まるで昔に帰ってしまいそうな横顔。
だから…思い切って、もう一回しがみつく。
「気にしないでください」
「いや、気になります」
「気にしないで」
そう言って、ぎゅっとしがみついた。わたしも総司さんも歩き方がギクシャクして、なんか二人三脚みたいだけれど、でもわたしは離れなかった。




