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間章  旅行 1日目(1)

------- 彩乃 side -------


 ぴゃーという音をさせながら、ものすごい勢いで流れていく窓の外の風景に総司さんが目を見張った。


「早すぎて目が回りそうです」


 二人で一緒に乗っている新幹線。さっきから総司さんの目は窓の外に釘付け。初めての二人だけの旅行にわくわくしながら、わたしは総司さんの横顔を通して、窓の外を見る。


「この国で一番早い電車で…世界でも十位に入る…だった気がします」


 お兄ちゃんから聞いた知識の受け売り。でもあまりきちんと覚えていないのが残念。


 わたしは膝の上においてあったガイドブックを開いた。「京都の歴史探訪 新撰組編」というタイトルのその本は、新撰組縁の地をまとめた京都旅行の本。


 総司さんに行ってみたいところを聞いたら「京へ…」と言ったから、京都にしたの。


「俊、よく了承しましたね」


 総司さんが外を見ながら言う。


「うん。でもお兄ちゃんだから」


 そう答えれば総司さんがわたしに視線を移す。


「どういうことですか?」


「お兄ちゃんは、わたしよりもわたしのことが分かってるの」


 うーん…と総司さんが唸る。


「わたしが本当に望むことは許してくれるんです。昔から」


 そう言ってわたしは総司さんに微笑んだ。



 総司さんと二人きりの旅行。


 わたしに生まれて初めての彼氏が出来たと知った高校時代の友人や、大学での友人に「二人きりで旅行とか行きなよ」って言われて、なんかそれって凄く恥ずかしいんだけど…そういうものかなって思った。


 みんな「アリバイ工作してあげる」って言ってくれた。でもそんなのはあっさりと見破られちゃった。




 二週間ほど前、リビングでわたしは思い切ってお兄ちゃんに話しかけた。


「お兄ちゃん。わたし、ゴールデンウィークに旅行に行きたいの」


 ソファに寝転がって本を読んでいたお兄ちゃんは、顔を上げずに答える。


「いいよ。どこへ行きたいの?」


「えっと…お兄ちゃんとじゃなくて…」


 なんて言おうか、戸惑うわたしにお兄ちゃんがちらりと視線をこちらに向けて尋ねてくる。


「誰と? どこへ?」


「えっと…大学のお友達と…サークル合宿で…」


「うん。行けば」


「それで…総司さんも一緒に来たらって…」


 わたしに向けられていた視線が総司さんに移る。


「総司。なんでそわそわしてるの?」


 え? なんで?


 わたしは総司さんの顔を見たけど、全然そわそわしてないし、普通にしてる。冷や汗もかいてないし、心拍数も上がってない。すごい普通にしてるのに…って思ったら、お兄ちゃんの声が続いた。


「何を心配してるの? 総司。僕の反応が気になるみたいだねぇ」


 そう言ってお兄ちゃんが身体を起こして総司さんを見たとたんに、総司さんの冷静さが崩れた。見事に心拍数があがって、うっすらと汗のにおいがしてくる。表情は変えてないけど、わたしの聴覚と嗅覚ならわかる。でもお兄ちゃんはわたしほど感じないはずなのに…。


 お兄ちゃんがため息をついた。そして身体を起こして、わたしたちを見た。


「で? 二人っきりで、どこへ行きたいの?」


 思わずわたしの頬が熱くなる。総司さんを見たら、総司さんも真赤で…。全部、お兄ちゃんにはお見通しでした…。


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