第6章 千客万来(5)
次はフランスの眷属だ。フランス語で話した後で、中国の眷属からも電話が来て中国語で話す。彼らの英語よりも僕がその国の言葉で話をしたほうが、話が早いし正確だからね。
こうして考えると、父さんって実はいろんなところで、いろんな眷属を作っていることを改めて実感する。
それぞれがなんらかの形でイギリスの投資会社から投資を受けて、僕に恩恵をもたらしてくれている。それに対する恩返し的な意味で、僕は自分が各国から得た情報を分析して、それをアイディアとして送るわけだ。
別に特別なことをしなくても、現代ではその国の言葉が分かれば、かなり細かい内情までニュースの形で出てくるしね。もっと細かい話を知りたければ、その国の眷属に連絡して情報を入手すればいい。
普段はメールでのやり取りが主で、僕の主軸は彩乃と牧師に置かれているから、わりと返事もおざなりだ。まあ、一応、目は通すけど。
ところが久しぶりに僕が動いたとなって、じゃんじゃん電話が鳴る。しかもメールを送ってない奴まで、僕に電話をかけてきた。恐るべし。一族のネットワーク。
結局、朝からほぼ一日中、各国の眷属と情報交換をし、それをまた各国へ還元しというのを繰り返した。電話とメールはひっきりなしで…合間にメールを送ってないはずの眷属から仕事以外のメールもやってくる。ついでに単なるお喋りと思える電話もだ。ようやく静かになったのは、十二時間以上経過して僕が切れて「いい加減にしろっ!」と怒鳴ったときだった。
かなり高ぶったときの主の感情は、多少の志向性を持って眷属に伝わるもので…。そのとき、僕の頭に顔が浮かんだ眷属達には相当の威力で僕の感情がぶつかったと思う。やれやれ。
さすがの僕もへろへろになって、ダイニングでコーヒーを入れていれば、カタンと教会堂のほうでドアが開く音がした。
夜も大分遅くなってきたし…。今度こそ献血志願者…もとい泥棒か…と思って覗けば、そこにいたのは小夜さんだった。
「宮月様」
思わず目が丸くなる。
「何してるの。こんなところで」
「彩乃さん…彩乃様が」
「いいよ。彩乃さんで」
「ええ。彩乃さんがご不在だと伺っていたので、ご不便があるかと思って参りました」
僕の前だと古風な話し方に戻ってしまう小夜さん。しかし…ご不便ね。僕は思わず苦笑いした。
「普段、料理も洗濯も掃除も僕がやってるから。不便はないよ」
「はい?」
「一応なんとなく分担してるけど、自分で一通りできるから。あ、そうだ。彩乃、料理が不得意なんだよね。今度、教えてあげて」
「は、はい…」
小夜さんは戸惑ったような顔をする。
「何? 他に何かある?」
「いえ…もしかして…お寂しいかと…」
僕が口を開こうとしたところで、またリビングで電話が鳴った。やれやれ。




