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第6章  千客万来(3)

 総司を乗せて車を発進させて…。しばらくして総司がそわそわし始めた。


「何? どうしたの?」


「いえ…実は俊に相談があって…」


「うん。何?」


「いえ…何度も言おうと思ったんですが…」


 どうにもはっきりしない。総司にしては珍しい。こういうときは、原因は一つだ。


「彩乃のこと?」


「は、はい…」


 あ~。多分、先日出てきた旅行のことだ。


 僕はキュキュッとタイヤの音をさせて、本当はまっすぐに進むはずだった道を左に曲がった。


「俊?」


「ドラッグストアと…本屋さんがあるところに行く」


「はい?」


「いや、多分、そうじゃないかなぁって思って」


「え? 私、何も言っていませんが…」


「うん。じゃあ、何?」


「えっと…」


 ほら。


 本屋とドラッグストアと酒屋が一緒になった郊外型のショッピングセンターに車を止めると、僕は車に積んであったメモ帳を出して、買い物メモを作った。


 そして総司にそれとお金を渡す。


「はい。総司。一人での買い物。いってらっしゃーい。ドラッグストアはあれだから。僕は本屋にいるから、終わったらそっちに来て。あ、ちなみにどこにあるか店員に聞いちゃダメだから。自力で探して。多分…レジの傍にあると思う」


 そう言って総司を送り出す。総司はなんだか分からないままに、騙されているような表情をしながらメモを持ってドラッグストアに向かった。


 いや~。何を買いに行ったか総司が気付いたときの顔が見ものだ。


 何を察したって? 彩乃との旅行でしょ。恋人同士、二人っきりで旅行と言えば何もないわけがない。


 だとしたら、避妊はしたほうがいいよね。彩乃は学生だし。まあ、そういうことだ。


 総司がそういう意味で相談したいのかどうかはともかくとして、現代知識がいくつかいると思うんだよ。うん。


 ここからは兄じゃなくて悪友モード発揮という感じだ。牧師のガウンを脱いで、ネクタイを緩めて、第一ボタンを外す。そしてセットした髪を乱して、メガネを取れば、いつもの僕の出来上がり。


 さてと。総司が買い物をしている間に、僕は一足先に本屋に入った。


 ぽいぽいといくつかの本を見繕う。現代の文章は読みにくいだろうから、あまり文字が多くなくて、ビジュアルがどぎつくないもの。理解しやすそうなものを中心に探す。


 そして僕が選び終わって、レジに行くか…と思ったところで、総司が戻ってきた。


「しゅ、俊…」


「何?」


「こ、これって…」


 そう言ってドラッグストアの紙袋に包まれた四角いものを見せる。


「あ、家に帰って箱を開けたら、使用方法は中に入っているから」


「えっ。えっと…」


 総司が話を理解していないのをいいことに「はい」と本の束を渡した。


「これ…なんか非常にまずい本に見えるんですが…」


 表紙の雰囲気から判断したんだろう。でもどちらかというとマニュアル本に近いほうだから、そんなにどぎつくないんだけどね。僕はニヤリと嗤った。買う前だから中身が何かは明かさないほうがいい。


「答えを聞く前に買ってきたほうがいいよ」


「はぁ…」


 不安そうな顔をして、総司がレジに行って帰ってきたところで、車に向かった。


「あの…俊?」


「何?」


「私は何の本を買ったんでしょう」


 思わず僕は笑ってしまった。


「分かりやすく言うなら春画と医学書の間のもの」


「え…」


 総司が絶句する。


「あの時代よりも現代のほうが医学も発達している。だから体の仕組みとか心の仕組みとかわかってきた部分もあるわけで…。ま、僕らの身体の仕組みは人間と色々違う部分もあるんだけど、でも多くは同じだと思うから。とりあえず読んでみて分からないところがあったら、僕に訊いて」


「は、はぁ」


「くれぐれも彩乃には見せないようにね」


「も、もちろんです」


 僕としては非常に複雑な気分なんだけど…でも割り切ることにする。今は総司の悪友に徹しよう。


「そうだ。総司」


「はい?」


「結婚観だけ言っておきたいんだけど。この時代は一夫一婦制が普通だから」


「は?」


「お妾さんや、愛人は認められないよっていうこと。多分、彩乃には総司の愛人とか認められないと思う。だから…もし女性を彩乃だけにできないなら、彩乃に手を出すのはやめたほうがいい」


 僕がそう言うと総司は眉を寄せて顔をしかめた。


「私がそういうことをすると思いますか?」


「いや。でもあの時代は…お妾さんは普通だったでしょ。近藤さんも奥さんがいながら、沢山の女性が周りにいたみたいだし。土方さんだって、次から次だったし」


 総司が、むむむと唸る。


「価値観っていうのは変わるから。現代では男性とはいえ、決まった人がいるのに、他の人と関係を持つのは浮気となって推奨されない。恋人や奥さんとは別の女性と関係を持ったら、別れの理由にもなる。まあ、総司は…大丈夫だとは思うけどね」


「はぁ…。土方さんや近藤さんが、この現代にいたら…大変そうですねぇ」


 本気で心配そうに言う声に、僕は笑ってしまった。確かにそうかもしれない。


 もっとも昔なんて一夫多妻制だったらしいしね。みかどには沢山の愛人がいたらしいし。未来になったらまた変わるのかな。


 とにかく、それから旅行までの間、総司には色々と必要な知識と余計な知識を詰め込んだ。


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