第6章 千客万来(2)
この数日後。僕は出かける用意をしつつ総司に声をかけた。
彩乃が大学に行っている間、総司は家に居て、家の中のいろんなものを使ってみる…というのをやっている。灯りをつけたり、シャワーを使ったりするのは覚えるのが速かった。次に調理器具関係。つまり冷蔵庫とかガスレンジとか電子レンジとか。これもわりと楽勝。
残るは掃除機や洗濯機、それにオーディオ関係とパソコンだ。まあ、ぼちぼちと覚えてもらうしかないよね。
「総司、僕は出かけるけど、君はどうする? ついてくる?」
総司はオーディオラックの前に座って、CDをつけたり、テレビをつけたりしていた。
「何しに行くんです? ついて行っても大丈夫ですか?」
「ああ。いいよ。今日は地鎮祭。見学だったらOKだよ」
「えっとOKっていうのは…あ、問題なし、可という意味でしたね」
「そう」
「じゃあ、行きます」
新築の家を建てる前に、地鎮祭をして欲しいといわれたのが今日の用事。地鎮祭ってほんとうは神道でやるんだけど、クリスチャンでもやりたい人がいるんだよね。それと工事関係者が何かをやらないと嫌がるらしい。
それで僕が行くわけだ。牧師スタイルで、賛美歌と聖書の箇所を印刷した式次第を持って、あとは音楽を流すためのプレーヤー。外で賛美歌を歌うことになるから、伴奏代わりだ。
ジャケットを着た総司をつれて、車に乗り込む。
「地鎮祭って…何やるんですか?」
「実は地鎮祭って言わなくて、キリスト教式だと『起工式』って呼ぶんだけどね。まあ、小さな礼拝をそこでやる感じかな。工事の無事を祈るのと、あとはそこに住む人の幸せを祈るのと。端で見ている分には問題ないから」
車に乗って30分。更地に人が集まっているのが見える。
「あそこかな」
車を止めて、荷物を抱えて降りて。そしてその更地で僕は式を始めた。
「初めて見ました!」
僕が式を終えて施主さんと話をして、お礼を受け取って車に戻ってくれば、先に乗り込んでいた総司が興奮して話しかけてくる。
思わず僕は苦笑いした。
「まあ、珍しいだろうね。あの時代には無いし。この時代でも、キリスト教自体がこの国では主流とは言えないし。それに地鎮祭自体をキリスト教式でやろうということが珍しいし」
「へぇ」
「本来のキリスト教でいけば、地鎮祭って無いからね。『地鎮祭』っていうのは、土地の神様を鎮める儀式だから。まあ、だから『起工式』って呼んで別ものになるんだけど」
「はぁ」
わかったような、わからないような総司の返事。あはは。まあ仕方ないね。




