第5章 牽制? 威嚇?(11)
「来るかどうか分からないけどね~」
僕は立ち上がって伸びをした。総司もつられて立ち上がる。
「300文じゃ…まだ養えないですね」
数歩歩いて振り返ると総司が切なそうな表情をしていた。
「焦らない。焦らない。でもちょっとでも自由になるお金があれば、デートはできる」
「でえと…ですか?」
「そう。男女が二人で遊びに行くこと。どこに移動するにも電車賃とかバス代とか、移動の費用がかかるからね。それに遊びに行った先でもお金がかかる」
「ああ。そうですね」
僕は教会堂から居住区へと繋がるドアまで歩いて、扉を開けようとして振り返った。
「忘れてたけど…ある程度慣れたら、総司にもお小遣いを渡すから」
「はい?」
「えっと…月々決まった額を家族から貰う制度。その中から自分が遊びに行ったり、欲しいものを買ったりするんだよ」
「働かないのにもらえるんですか?」
「うん。本来的な意味は小さな子供にあげるお駄賃。でもまあ、まだ稼げないうちは貰ったりする。彩乃にも昼食代を含めて渡してるよ」
むむむ…と総司が唸る。自由になるお金は欲しいけれど、タダで貰うのに抵抗があるっていうところだろう。
「じゃあ、こうしよう。ツケにしよう。ある程度の収入が見込めるまでは、とりあえず定期的に渡す。収入が見込めるようになったら、少しずつ返してもらう」
別に返してもらう気はまったくないけど、まあ、そうしておこう。
「わかりました」
総司がようやく納得したように頷いた。
そしてこの頃から、総司は夜中によくリリアと話をしていた。内容は他愛のないことで、現代のことだったり、あの時代をリリアはどう思っていたのか…ということだったりだ。
総司は総司なりに考えることがあるんだろう。
僕は見守ることにして、知らないふりをしていた。
ちなみに例のヤナセくんは来た。何を思ったか、教会のドアを「頼もう~」と大声を出しながら入って来て、思わず僕はコケそうになった。
とりあえず毎週土曜日の剣術稽古は、木刀を持って素振りをするところからスタートしている。総司には「徹底的に優しく教えて。そうしないと辞めちゃうから」と注意した。
あの時代はスパルタで、とにかく稽古が優先…みたいな雰囲気で、すぐに怒鳴り声が飛んでいた。でも現代でそんなことやったら、みんなすぐに辞めてしまう。怒鳴られたらすぐにいじけちゃうしね。
この時代では、とにかく褒める。なんでもいいから褒める。そうしないと辞めちゃう。
そういう気質の違いを総司に言い含めたら「それって軟弱なだけじゃないですか」と言いつつも、最初に出来た弟子だけに大事にはしている。




