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第5章  牽制? 威嚇?(10)

「俊…何が何やら」


 僕はふぅと息を吐き出して、手近な椅子に座りこんだ。教会堂には椅子が沢山あるから、座るのには困らない。


 ついでに聖書や賛美歌の本が入っている小さな机に肘をついて顎を支えた。


「どうやら君の男気に惚れたらしいよ」


「え?」


「昨日の彩乃は渡さない宣言に、彼が落ちたらしい」


 とたんに総司が赤くなって、青くなった。


「いや、私にはそういう趣味はありません」


「彼にもないらしいけど。総司のようになりたいんだって」


「はぁ」


 とりあえず座れば? と言って、総司も椅子に座らせる。


「居候させろって押しかけてきたから、それは断った。なんでもいいから入門させろって言ったところで、君が来て、あの展開」


「あ…まずいところに来ちゃいましたか?」


「ん~。いいんじゃない? ま、ホントに剣術教えてあげれば」


「えっと月謝っていうのは…」


「あ、月々の先生に対する謝礼。一万円っていうと…そうだなぁ。300文ぐらい? 大体ソバが20杯ぐらい食べれる。まあ、ソバ屋によるけど」


「値段はわかりましたが…相場がよく分かりません」


「ちょっと高いかな。わりと武道教室ってボランティア…えっと奉仕活動的に、安いところが多いんだよね。100文程度で教えてもらえるところが多い。でも法外なわけじゃない。道場を自費で構えているところなんかは、逆にもっと高いよ」


 それにさ…と僕は続けた。


「いいかなって。ちょっと高いぐらいがやる気でるでしょ。しかもあの沖田総司にマンツーマン…一対一で教えてもらうなんて。分かっている人が知ったら、垂涎の的だよ」


「そうなんですか?」


「そう。大体、日本の剣術って、戦後に一回途絶えているからね。天然理心流も、実は厳密にはどんな形だったか残ってないんだよ」


 総司が目を丸くした。


 これは本当のことだ。日本の古来から伝わっていた剣術は、第二次世界大戦の後、どの流派も一度途絶えている。だから実際に剣を握っていた時代の人たちが、どのようにして戦っていたかというのは、書物や伝聞でしか伝わっていなくて「きっとこういうものだったに違いない」という部分が入っている。


 それにスポーツ的な要素も入ってしまって、女性や子供でもやりやすいように…という配慮がされたことで、本来の形とは離れつつある。


 まあ、剣で戦うことが無くなったから、それでいいんじゃないかなって思うけどね。


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