第5章 牽制? 威嚇?(8)
翌朝…と言っても夜明け前。僕は夜通し本を読んでしまって、そのまま起きてコーヒーでも飲もうかとリビングに行き…教会堂のほうに人の気配を感じた。
基本的に僕らがいる間、教会は鍵をかけずに空けたままでいることが多い。
でもこんな早朝に人がいることはなく…うーん。献血志願者…じゃなくて、泥棒さんかなぁ。それだったらそれで、ありがたいんだけど…。
そう思って教会堂に行けば、見たことがある人が教会堂の中できょろきょろしていた。
「えっと…君は…ヤナセくん?」
僕の声かけに、ビクリとして振り返り、そして直立不動になる。
「はい。そうです」
いや、普通に返事されても…。
「何してるの?」
しかもこんな早朝に。
「入門しにきました」
「はい?」
「あの後、すっげぇ考えて、で、やっぱ勝てねぇわって思って」
うーん。話が今一つ分からない。
「ごめん。何を考えて、誰に勝てなくて、何に入門するつもり?」
僕の質問にヤナセくんはびくりとした。いや、普通に主語が不明で訊いただけなんだけどな。
「お兄さんと…あの総司さんって人が言ったこと、考えてて。俺、総司さん見て、すっげぇ、負けたって思って…」
ああ。なるほど。
「それで朝から奉仕活動だって言ってたから、飲んだ後、そのまんま。この教会探しました」
「はい?」
「えっと、俺を入門させてください」
そう言ってヤナセくんはきちんと背筋を伸ばすと、僕に頭を下げた。
「ここ、そういう場所じゃないし」
僕が慌てて言えば、ヤナセくんは頭を上げて僕を見た。
「俺、意思は強いほうなんで」
いや、このタイミングでそんなもの発揮しなくていいから。
「入門って何すんの」
「住み込んで研修とか? 色々教えてください」
思わずため息が出る。なんでも教えてもらおうとするんだよな。自分で学べ。っていうか、何を教えろっていうんだよ。まったく。
「住み込みって言ったって、部屋は無いし。教えることも無いし」
「どこでもいいです。なんでもしますから」
「いや、邪魔だし。それに彩乃もいるところに、男を入れるわけにいかないし」
「彩乃ちゃん…彩乃さんには手を出しません。俺、あの人に勝てねぇって思ったんで」
僕は弱って額に手をやった。




