第5章 牽制? 威嚇?(7)
「お兄さんはどうですか?」
「え? 僕?」
「わたしの彼氏」
思わずバックミラーでマジマジと見た瞬間に、彩乃が千津ちゃんの手を握る。
「ダメだよ。千津ちゃん。お兄ちゃんはダメ」
「え? なんで? 彼女さん、いるの?」
「ううん。違うけど、お兄ちゃんは、いいお兄ちゃんだけど、彼氏としてはダメなの」
なんだそれ。ま、否定できないけど(笑)
「あ~。うん。僕もあんまりお勧めしないかな」
笑いながらそう言えば、千津ちゃんは僕と彩乃を交互に見た。
「え~。そうなんですか~? えっと…彩乃ちゃんの彼氏さんは、お兄さんのこと、どう思います?」
総司がへにゃりと笑った。
「えっと…難しい質問ですね。まあ…うーん。本人がお勧めしないなら、お勧めしない方で」
「じゃあ、彼氏さんのお友達でいい人いませんか?」
総司が詰まる。
僕はハンドルを切りながら、口を出した。
「彩乃と総司はともかくとしても、大学で探すほうが同じぐらいの年で、話題も合っていいんじゃないの?」
「うーん。そうですね~」
千津ちゃんが何かを考えるように天井を見る。
「千津ちゃんは、どんな人がいいの?」
そう問えば、さらに上目遣いのまま、視線をあちこちにやりはじめた。
「うーん。楽しい人?」
「他には?」
「えっと…優しい人? あと真面目な人?」
「そう。じゃあ、そういう人が見つかるといいね」
そう言ったところで、千津ちゃんの家の付近に着いた。
「あ~。ここです」
そう言ったところで千津ちゃんを降ろす。彩乃が窓をあけて千津ちゃんに手を振るのを見ながら、僕は車を発進させた。
総司が隣で詰めていた息を吐き出す。
「今日は初めてこの時代の若い人と長く話しました」
興奮気味に話す総司に、思わず笑ってしまった。まるで英語で初めて外国人と話をした小学生か中学生みたいだ。
「一つ気付いたんですけれど、みんな疑問形で話しますよね」
「え? そう?」
「ええ。俊がよく疑問形で話すんで、なんで自分のことなのに疑問形なんだろう…と実は前から不思議に思っていたんです」
そう言えば…よく総司や土方さんから「なんで疑問形なんだ」って言われていたっけ。
「無意識だったから気付かなかった」
「そうでしょう。私からしたら不思議だったんです」
「あ~。そう言えば、ここ十数年かな。そういう話し方が流行り始めたの。最初は僕も違和感を覚えてたけど、いつのまにか癖になってたな」
「そうなんですか? なぜ疑問形になるんでしょうね。自分のことなのに」
「そう言えば…」
僕はテレビで言っていたことを思い出した。
「現代社会では人とぶつからないために、自分の意見をできるだけはっきりさせないっていう風潮があるらしい。だから疑問形で話して、曖昧にしておくんだって。自分の意見を表さないっていうのは、ごまかしたいときに楽ではあるよね」
総司が横目で呆れたように僕を見る。
「俊の場合は、わかっていて疑問形を多用しそうですよね」
あはは~。バレてる。
「両方だよ。意図的な場合と、無意識な場合と。あの時代で出ちゃったのは無意識なほうが多いかな」
にっこりと笑って言えば、総司がため息を吐き出す。
「私もそのぐらいの図太さが欲しいです」
僕は運転しながら、ひょいと肩をすくめた。
「250数年生きれば、図太くもなるよ」
「それもそうですね。驚きはしません」
おっと。だいぶ総司も僕に慣れてきたらしい。




