第3章 新たな出会い(7)
幸いなことに、こちらはかすり傷程度のけが人のみ。
かかってきたほうは、僕が気絶させた数人。
総司が殺した数人。
斉藤が殺した数人。
そのほか、怪我人。
逃げた数人。
ということで、逃げたのもいたけれど、生き残ったのは捕縛にして、屯所に連れて行くことになった。
斉藤たちは騒ぎを聞きつけて駆けつけたそうだ。見回りは中止して、一旦屯所に戻ることにする。
僕は自分から視線がそれたのを見極めて、彩乃が隠れているところに走った。
「彩乃?」
彩乃は家の影となるところで、体育座りをして、自分の膝小僧に頭を埋もれさせていた。足元には血を吸い尽くして、蝋のように真っ白になった腕が落ちている。
僕は彩乃の足元に跪き、顔を覗き込んだ。
「彩乃? 大丈夫」
彩乃が頭を上げたと思った瞬間に、その顔がしかめられた。
「俊にい」
「リリア?」
「うん。そう。彩乃は逃げた」
「逃げたって…」
ひょいっとリリアが肩をすくめてから、自分の胸をとんとんと叩いた。
「ここで隠れてる」
僕は黙ってリリアに手を貸した。血だらけになっているのに気づいて、拭ってから…と思ったら、羽織も血だらけだった。ごめん…と謝ると、リリアは黙って首を振った。
「立てる?」
「うん。大丈夫。ショックを受けたのはあたしじゃないし」
「そう」
立ち上がったリリアを見てから、僕は足元に落ちていた腕を拾いあげた。
まるで作り物のようになった名も知らぬ男の腕に牙を立てて、残っていた体液すら吸い取ると、それは灰のようになって崩れていった。
証拠隠滅。
「彩乃はさ」
リリアがぽつりと言う。
「一族としての自覚が足りないんだよ。自分の中の吸血衝動にショック受けたみたい」
「そうなの?」
「いつもあたしが『食事』してるじゃん」
リリアは「食事」のところを強調するように言う。
「そうだね」
「だから、自分にそういう衝動があるっていうのが、信じられなかったみたい」
「そっか」
「うん」
リリアの声は沈んでいた。




