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間章  能力(2)

 お互いに木刀を正眼に構える。その後で彼女は構えを下段に変えた。ふっと思い出すのは最初に彼女と打ち合ったときだ。新撰組へ入るというおかしな二人の相手をしたときに彼女はやはり下段に構えていた。


「行きます」


 彼女が一言発したと思った瞬間に、見えなくなった。気配だけを頼りに慌てて振り返って構えれば、そこにカンと音がして木刀があたる。木刀越しに彼女の笑みが見えた。ぞくぞくする。


 ああ。彼女もやはり強い。あの時代でも女人にしては強いと思ったが、やはりそれ以上に強かったのだ。


 軽く見えるのに押し込んでくる力は、俊以上に全身全霊で対応しなければ押し負ける。なんとか押し返したと思ったところで、彼女がまた消えたように移動する。


 上から木刀が降ってきた。それを慌てて捌けば、音もなく彼女が目の前に着地して、正眼に構えてくる。


 確かに早いし力もある。しかし俊と比べると気配を消しきれていないし、攻撃が単調だ。やはりそこは実戦がものを言うのだろう。


 彩乃さんとの何度かの打ち合いの後で、ようやく私が一本を取ったところで朝になった。


「ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 

 お互いに木刀を左手で持ち、挨拶をする。


「おかげで掴めたような気がします」


「そうですか?」


 彩乃さんの呼吸が少しばかり荒い。私のほうは少しばかりでなく、かなり荒くなっている。これが能力の差か。または慣れの違いか。


「しかし…俊も彩乃さんも、あの時代には本当に猫をかぶっていたんですね」


 私の言葉に彩乃さんが申し訳なさそうな顔をする。


「お兄ちゃんが、弱いふりをしていなさいって。今もそうですよ? 人間のふりは大事なんです」


「そうですね」


「そうですよ?」


 お互いに微笑みあってから、私はそっと彩乃さんの頬に手を添えて、そっと唇を重ねた。


「ありがとうございます」


 剣の相手をしてくれてありがとう。それ以上に傍にいてくれてありがとう。そんな感謝の気持ちを込めた。彩乃さんの頬が赤くなる。


「どういたしまして」


 その言葉に愛しさがこみ上げて、もう一度、私は彩乃の唇をついばんだ。


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