第4章 アイデンティティ(16)
やるじゃないか。
でも甘いな。
そのまま総司の力を借りるように、打たれた木刀を身体の反対側から回して、逆側から袈裟に斬りかかる。同時に身体は半身にするから、総司の木刀は空振りになった。
ピタリと肩口を打つところで、木刀を止めてやる。
「遅いんだよ」
総司の顔が悔しそうにゆがんだ。僕も総司もかなり呼吸が荒くなっていた。久々だよ。こんなに速いスピードで、こんなに長い時間動いたのは。
すっと引いて晴眼の構えを取る。同時に総司も立て直すように、晴眼に構えた。
しんとした教会堂。二人の荒い呼吸音が響いている。
そして…もう一人いた。
ちょっとだけ冷静になって、ようやく僕らは僕ら以外の気配に気付いた。それだけ打ち合いに夢中になっていたってことだ。
この時間にここに来る者なんて、一人しかいない。二人して木刀を下ろして、教会堂の入り口に目をやる。
うん。あの不安そうな表情は彩乃だ。リリアはあんな表情をしない。
「彩乃」
僕が声をかければ、彩乃が泣きそうな顔で僕らのほうに近づいてきた。
「総司さん…。わたし…」
すがるような目をしながら総司のほうへ歩いていく。
こりゃ、僕はお邪魔虫だね。
そっと木刀を置いて、教会堂のドアに手をかけた。後ろから彩乃が呟く声が聞こえる。
「総司さん…わたしのこと嫌いにならないで…」
「そんなこと…絶対にありません」
総司がしっかりと答えるのを聞いて、僕は安心して教会堂から出ようとドアを開けたときだった。
「俊」
総司の声が追いかけてくる。
振り向けば、総司がしっかりと彩乃を抱きしめていた。そして黒に戻った瞳が僕をまっすぐに見ている。
「次は目の色を変えさせてみせます」
そう。これだけ打ち合っても僕は自分の能力を解放しきってはいない。
「そして…すぐに。必ず。俊から一本とって見せますから」
僕はひょいと肩をすくめてみせた。
「楽しみにしてる。ま、いつでも言ってよ。お相手するから」
「ええ。お願いします」
「楽しかったよ」
「私もです」
僕は背中を向けながらひらひらと片手を振って、今度こそ教会堂を後にした。




