表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
341/639

第4章  アイデンティティ(16)

 やるじゃないか。


 でも甘いな。


 そのまま総司の力を借りるように、打たれた木刀を身体の反対側から回して、逆側から袈裟に斬りかかる。同時に身体は半身にするから、総司の木刀は空振りになった。


 ピタリと肩口を打つところで、木刀を止めてやる。


「遅いんだよ」


 総司の顔が悔しそうにゆがんだ。僕も総司もかなり呼吸が荒くなっていた。久々だよ。こんなに速いスピードで、こんなに長い時間動いたのは。


 すっと引いて晴眼の構えを取る。同時に総司も立て直すように、晴眼に構えた。


 しんとした教会堂。二人の荒い呼吸音が響いている。



 そして…もう一人いた。



 ちょっとだけ冷静になって、ようやく僕らは僕ら以外の気配に気付いた。それだけ打ち合いに夢中になっていたってことだ。


 この時間にここに来る者なんて、一人しかいない。二人して木刀を下ろして、教会堂の入り口に目をやる。


 うん。あの不安そうな表情は彩乃だ。リリアはあんな表情をしない。


「彩乃」


 僕が声をかければ、彩乃が泣きそうな顔で僕らのほうに近づいてきた。


「総司さん…。わたし…」


 すがるような目をしながら総司のほうへ歩いていく。


 こりゃ、僕はお邪魔虫だね。


 そっと木刀を置いて、教会堂のドアに手をかけた。後ろから彩乃が呟く声が聞こえる。


「総司さん…わたしのこと嫌いにならないで…」


「そんなこと…絶対にありません」


 総司がしっかりと答えるのを聞いて、僕は安心して教会堂から出ようとドアを開けたときだった。


「俊」


 総司の声が追いかけてくる。


 振り向けば、総司がしっかりと彩乃を抱きしめていた。そして黒に戻った瞳が僕をまっすぐに見ている。


「次は目の色を変えさせてみせます」


 そう。これだけ打ち合っても僕は自分の能力を解放しきってはいない。


「そして…すぐに。必ず。俊から一本とって見せますから」


 僕はひょいと肩をすくめてみせた。


「楽しみにしてる。ま、いつでも言ってよ。お相手するから」


「ええ。お願いします」


「楽しかったよ」


「私もです」


 僕は背中を向けながらひらひらと片手を振って、今度こそ教会堂を後にした。


挿絵(By みてみん)

イラスト(俊哉):アポロ様

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ