第4章 アイデンティティ(14)
僕は教会の屋根に目標を定めて下降し始めた。
「俊、お、落ちています」
思わず手を離してやろうかと思ったよ。
「違う。降りてるんだよ。教会の屋根に降りるから。掴まっていて」
そして僕らは屋根に降り立った。
「夜の散歩、終了。ついでに総司、教会堂に付き合ってよ」
僕にはもう一つ、総司に見せてやろうと思っていることがあるんだ。
ぽんと軽く飛び降りると教会堂に二人して入る。そして僕は教会のずらりと前を向いて並んだ椅子を壁際に寄せ始めた。総司が僕を見ながら首を傾げる。
「何をしてるんです?」
「場所を空けるから、総司も手伝って。椅子を端に寄せて」
総司は意味不明ながらも、とりあえず手近にあった椅子を運び始めた。二人でやれば早いもんだ。数分で教会堂の真ん中に広々としたスペースができる。
「これでよしと。ちょっと待ってて」
僕は総司を待たせて、あるものを取りに行った。
「お待たせ」
ぽいっと持ってきたうちの片方を総司に投げる。
「木刀?」
そう。木刀を二本。
「総司。君に本気の僕を見せてあげる」
「はい?」
「京で総司は何回も僕に言ったでしょ。本気になれって。だから僕の本気を見せてあげるよ」
総司がごくりと喉を鳴らした。
「まあ初めてだし。得物はこの木刀だけ。剣術だけに限定して手足は出さないであげる。おいでよ総司。本気出してあげるから、かかっておいで」
にやりと笑って木刀を構えると、総司も同じように晴眼の構えを取った。
「剣術だけなら君のほうが強い。今は君も殆ど僕と同じ速さや強さで動ける。でもね…君は僕から一本も取れないよ」
僕の挑発に、総司がぎゅっと木刀を握りなおす。
「来ないの?」
そう問えば、総司が動いた。すばやい動きで、僕の傍に寄ったかと思うと袈裟に斬りかかってくる。僕はそれを受けて、そして左右の切り返しが始まった。
右で受け、左で受け、すばやく左右に木刀を返すことで、移動させて相手の木刀を受ける。
すでに人間の速さでないその動きに、総司はよくついてきている。でも…それじゃあ、ダメなんだ。




