第4章 アイデンティティ(11)
「すみません。さっきは考え無しに…。俊のことも、彩乃さんのことも傷つけてしまいました」
「いや。僕も急ぎ過ぎた。君にも、彩乃にも。食事をしないといけないのは本当だけど、もっとやり方があったと思う」
総司の目は伏せられたままだ。
「あ、でも僕はいいから、彩乃には謝ってあげて。多分、凄く気にしているから。その…きっと総司の前では普通の女の子でいたいんだと思う。だから自分のそういう部分を見られるのが凄く嫌みたいで…」
そう言えば、総司の視線が僕に戻った。
「私も同族なのに…」
「それでも、だよ」
「分かりました」
「あと…さ」
僕は一瞬、言うか言うまいか躊躇した。でも兄としては言っておきたい。
「リリアのことなんだけど」
総司がじっと僕を見る。
「リリアも…僕の妹だから」
「あ…ええ。そうですね…」
意図が伝わっていないらしく、総司が曖昧な返事をする。
「リリアのことをどうするか、どう思うかは、総司に任せる。っていうか、僕は口出せない問題だし。でも、考えてあげて。彩乃とリリアは同じ身体を分け合っているから」
「あ…」
伝わったんだろうか。でもこれ以上言うことは憚られた。
「あとは…総司と彩乃のことは親友として、二人の兄として応援するよ」
「兄?」
僕は肩をすくめた。
「そうでしょ? 彩乃と結婚…えっと祝言を挙げたら僕は君の義理の兄だよ。もう気持ち的には、二人のことを認めてるし」
総司の目が丸くなる。そこまで考えていなかったみたいだ。
「えっと。兄上…ってお呼びしたほうがいいですか?」
呼ばれた瞬間に慣れなくて、背中がむずがゆくなった。
「いや、止めて。総司に呼ばれた瞬間に、ぞっとした」
「何でですか!」
「いや、何となく」
総司がにやりと笑う。
「じゃあ、今度から兄上と」
「うわー。マジで止めて」
総司がぷっと吹き出した。
「俊、本気で嫌そうな顔をしていますよ」
「だって…総司には…義弟じゃなくて親友としていて欲しいよ」
「自分で言っておいて…」
「後悔してる」
総司がさらに笑いだす。
「意外に俊も抜けているところがあるんですね」
「そりゃ、あるでしょ」




