第4章 アイデンティティ(8)
リリアがテーブルに肘を付きながら立ったままの僕を見上げてくる。探るような視線に思わずため息が出る。
「追わないの?」
「追わない。自覚したらいいんだ。総司は。現代で、一族で、戻れないってこと」
「つめたーい」
からかうような口調でリリアが言う。
「いいんだよ。そのぐらい突き放しておいたほうが」
「そうなの?」
「多分」
それよりも問題は彩乃だ。
「彩乃はどうしてる?」
リリアが顔をしかめた。
「泣いてる。あいつに言われたのが結構堪えたみたい」
はぁ。そうだろうな。
「あれは酷かった」
僕の言葉に、リリアが睨んでくる。
「俊にいのせいじゃん」
「なんで」
「総司さんを追い詰めるから」
「別に追い詰めてない」
「総司さんも焦ってるんだよ」
「なんで」
「自分でどうしようもない状態になってんじゃん」
「そう?」
「そうだよ。時代違うし、種族違うし。でもどっちにも慣れないし」
「だから、それは焦んなくてもいいでしょ」
「でも焦るよ」
「どうして」
「俊にいが追い詰めてるから」
「はぁ? だから、僕がいつ追い詰めた?」
リリアが立ち上がって僕に人指し指を突きつけた。
「追い詰めたじゃん。総司さんが仕事を得るまで子供作るなとか、家ではいちゃつくなとか。それって、この時代に慣れるまでは彩乃に手を出すなってことじゃん」
「リ、リリア?」
「だってさ、総司さんと彩乃だよ? 現代の知識ないし、彩乃は超が付くぐらい、そういう方面ダメだし。ラブホ行こ、なんて考え、無いよ?」
僕は頭を抱えた。そしてとりあえずリリアが僕に突きつけている人差し指を掴んで下ろさせる。
「あのさ。まずは人を指差すのは止めなさい。失礼だし、やってる本人が下品に見える。あと、なんでそんな、彩乃が知らない知識を君は持ってるの」
「あたしは彩乃が買ってきた雑誌の彩乃が読まないコーナーまで読むから」
リリアが僕を上目遣いで見た。
「今どき高校生の知識だって、もっと進んでんじゃん? 総司さんと彩乃の場合、それ以下じゃん」
「リリア…」
あまりそういうことをあけすけに話して欲しくないと思うのは、僕の考えが古いんだろうか。うーん。




