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間章  買い物

-------- 彩乃視点 ---------


 勉強していたら蛍光ペンが出なくなっちゃった。お兄ちゃんは使わないし…買いにいくしかないかも。


「総司さん、買い物に行きますけど、行きますか?」


 夕食後のリビングにいた総司さんに声をかければ、何かをお兄ちゃんとやっていた。総司さんがちらりとお兄ちゃんを見れば、お兄ちゃんが笑う。


「いいよ。行っておいで」


「すみません」


 いそいそと立ち上がった総司さんと一緒に外に出る。買い物といっても傍にあるコンビニ。最近、わたしが何かを買い物に行くときには総司さんがついてくるの。


 護衛と荷物持ちと勉強を兼ねているんだって。


「総司さんは、おにいちゃんと何をしていたの?」


「勉強です。この世界の文字を読むために。大分わかってきました。意味が難しいものがありますが、文字は大丈夫です」


 わたしの隣を歩く総司さんの顔が明るい。カタカナの言葉は少し大変みたいだけど、総司さんは覚えるのが早いってお兄ちゃんが言ってた。


「しかし…」


 総司さんがきょろきょろする。夜の道は街灯で照らされていて明るい。会社帰りっぽい女の人ともすれ違う。


「本当にこんな時間に女性が一人で歩いているんですね」


「そうですよ」


 わたしは思わず笑ってしまった。だって、最初に夜に買い物へ行くって言ったときには、総司さんったら「ダメです。危ないです」って凄かったんだもの。お兄ちゃんが「この辺りは安全だから」って言って、ようやく出てこられたの。


 コンビニに入れば、総司さんはまずぐるりとコンビニの中を一周する。売られているものが珍しいんだって。


 わたしが蛍光ペンを見つけた後で、総司さんを探せば、ペットフードの棚の前にいた。


「何しているの?」


「これは…ねずみの餌ですか?」


 ハムスターとひまわりの種の写真が袋についている。


「そうですね。ハムスターっていうんですよ」


「ねずみを飼うのですか?」


「飼いますよ。ペットショップへ行くといろんなペットがいるんです」


 総司さんの眉間に皺が寄る。聞きたいような、聞きたくないような…そんな表情をしているの。思わず私はからかいたくなってしまった。


「えっと…蛇とか。トカゲとか」


「えっ。それを飼うんですか?」


「はい。あと虫とか魚を飼う人もいますね」


 あ、総司さんが唸ってる。


「虫は飼うものなんでしょうか。ああ、鈴虫は飼いますね。音が綺麗だから」


「あ、カブトムシとかクワガタとか」


「山に行けばいますよね?」


「今は見つけるのが大変なんです」


「むむむ」


 そういえば、あの場所では夏になればカブトムシもクワガタもいたし、田んぼにカエルもおたまじゃくしもいたっけ。


「その辺にいるようなものを、わざわざ飼うのですか?」


「その辺にいないから飼うんですよ。きっと」


「いませんか?」


「いませんね。わたし、あの場所で初めてみた昆虫がいっぱいいます」


 総司さんを促して、お金を払ってから外に出てゆっくりと歩いた。明るい街灯の中、星も見えない夜空の下でアスファルトを感じながら総司さんと歩く。なんか不思議な感じがする。


「この道もまだ慣れませんね」


「そうですか?」


「あまりにも平坦すぎて不思議です。それに硬い感じがして足に響いてきます」


 確かに土の上を歩くよりは硬いかも。でも雨の日はこっちのほうが歩き易い。京の道は雨が降ればドロドロで、風が吹けば土埃が舞った。


「この道…なんか光っていますよね?」


 総司さんが首をかしげた。思わず笑ってしまう。


「不思議ですよね? わたしも不思議だったんです。それでお兄ちゃんに聞きました」


 それはわたしが小学生のときの話。


「それで、俊はなんと?」


「ガラスが入っているんですって。車を運転している人の注意を引くためにキラキラしているそうですよ」


「ガラス…ぎあまんですね。面白いですね。空の星は見えないのに、足元に星があるみたいです」


「そうですね」


 総司さんの言葉に、道路のキラキラを見ていたら、総司さんがそっと手をつないできたの。総司さんの手はとっても暖かくて、幸せな気分。そして家まで、凄くゆっくりと歩いて帰りました。


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