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間章  隣の家(2)

「剣道ですか?」


 そう問えば、えっと…と躊躇した。


「…撃剣です…」


 戸惑っているような口調で戻ってくる。


「撃剣?」


「剣術と申し上げたほうが良いでしょうか」


「時代劇のようですな」


 そう言って笑うと、沖田くんは少しうろたえた。


「何か私は、おかしなことを申し上げたでしょうか」


「いえいえ。私は時代小説が好きなので、ちょっと嬉しかっただけです」


「はぁ」


 要領を得ないような表情で、沖田くんが私を見てくる。


「どうぞ続けてください」


 そう伝えれば「失礼します」と頭を下げてから、また木刀を構える。


「あ、そうだ」


 そう声をかければ、また木刀が下に下ろされた。そして身体がこちらを向く。


「なんでしょうか」


「剣術ということは、どこの流派ですか?」


 頭の中に上がったのは、有名な時代小説家の書いた小説の主人公たち。思わず尋ねてみたくなって、声をかけてしまった。


「その…天然理心流と申しまして…」


「おっ。近藤勇ですね」


 沖田くんが目を見開いた。


「ご存知ですか」


「名前だけは。実際にどんな流派なのか知りませんが、時代小説好きで、幕末や新撰組に興味があれば知っていますよ」


 ふふふ。と私は声を出して笑った。それなりに読み込んでいるから各流派と人の名前ぐらいは知っている。


「あれですか、『沖田総司』ですか」


 そういったとたんに沖田くんが狼狽した。どうやらアタリだったようだ。


「沖田という姓で、剣道などに興味が出たら、それは『沖田総司』を意識しますな」


 うんうんと頷くと、沖田くんが居心地悪そうに身じろいだ。


「幕末の新撰組。一番隊長『沖田総司』。天才剣士と名高い。いや。結構。結構」


「は、はぁ」


「『沖田総司』に負けないように、鍛錬してください。ははは」


 笑って言えば、沖田くんはますます複雑そうな顔をした。


「いやいや。隠さなくていいですよ。憧れの人がいるのは鍛錬する上でも結構なことじゃないですか。夢は大きく持たないといけません」


「はぁ」


「これはお邪魔しました。どうぞ続けてください」


 そう言って頭を下げれば、再び「失礼します」と声が返ってきて、彼は木刀を構えた。


 うん。なかなか様になっている。それなりに強いのかもしれない。


 彼なら、そのうち新撰組の沖田総司のようになれる日も近いかもしれないなぁ…などと考えながら、今度こそ私は家の中に引っ込んだ。


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