第3章 新たな出会い(3)
刀を持ちやすいように包んでもらって、泉屋を出たところでうっかり人とぶつかった。
いやいや。僕が人とぶつかるなんて、よっぽどだよ?
すばやく胸元を動く感覚がしたので、そのまんま掴むとぶつかった相手の腕だった。町人風の若い男だ。
思わずため息をつく。掴んだ腕の先にあるのは、僕の財布代わりの布包みだ。
「返してよ」
片手で刀を抱えていて、片手で相手の腕を掴んでいるために、財布を受け取ることができない。睨みつけてくる相手の腕を掴んだまま、どうしようか思案していると、ばたばたと足音がして、もう一人、武士と思われる若い男が走ってきた。
「そいつを捕まえてくれ。いや、離さないでくれ!」
そう叫ぶと走りこんできて、男の胸倉を掴む。その隙に僕は自分の財布を取り返した。若い武士も男の胸倉から自分の財布と思うものを取り出す…と同時に、手が緩んだのを見計らって、町人風の男が逃げ出してしまった。
二人で顔を見合わすが、逃げ足が速い。
ここに人がいなかったら追うかもしれないけど、人前で全力疾走する気の無い僕は、そのまんま見送った。
「捕まえてくれてありがたい! これが無くなったら、どうしたらよいか。礼をしたいので、よかったら一杯」
若い武士が声をかけてきた。断る僕に、いいから、いいからと、腕を引っ張られ。強引だな~とか思いつつ、急がないし、まあいいか~と僕はついていった。
「改めて礼を言う」
もう一度、男が頭を下げてきた。
僕も、つられて頭を下げる。
「松里と申します」
「宮月です」
年齢的に言って、二十二、三だろうか。若いな~とか思うけど、僕も同じぐらいだと思われてるんだよね。
これから京では祭が多くなる…とか、京の桜は綺麗だ…とか、それなら島原のどの太夫は綺麗だとか。たわいないことを話しているうちに、酒に酔ってきたのか、松里はどんどん饒舌になってきた。
「これから、世の中は変えていかないといけないのですよ!」
あ、熱く語り始めた(笑)
「これからの世の中は、自分の信じた夢を自分で実現できる世の中になりますよ」
「そうですね。自分で実現できるって大事ですよね」
「そうなんです!」
あ、ちょっと飲ませすぎちゃったかな~。まだ時間も早いのに、ずいぶん酔っ払ってるかも。
「それで僕はですね、誰にでも門戸を開く部隊を作ろうと思っているんです」
「ああ、それはいいですねぇ」
「いいでしょう! 身分や出自で断られていた者たちを取り立てようと思っているんです」
ちょっと驚いた。この幕末の日本社会は、長く続いた身分差別の社会だ。
僕としては、人間という同族同士で、分け隔てをして上下を作る感覚がよく分からない。
でもこの幕末では身分がしっかり分かれている。
それが当たり前の世の中で、あえてその身分の枠を外そうとしているらしい。
思わず深く頷いてしまった僕に、わが意を得たりとばかりに盛り上がってくる。やばい。
「いや~、理解してくださって嬉しいですよ! 宮月殿」
ノリノリになっちゃったよ。
「いえいえ。松里殿」
とりあえず調子を合わせておく。
これ以上飲ませるとつぶれそうなので、適当に切り上げて外に出たら、かなりの時間が経っていた。
「松里殿、足元が危ない。送りましょうか?」
「いえいえ。大丈夫です。これしき。またお会いしましょう。ぜひお会いしましょう」
そう言って、彼は僕の片手を握り締めてから帰っていった。
いや~。パワフルな人がいるもんだ。っていうか、パワフルだらけだよね。




