第2章 現代探訪(7)
「あ~、ごめん。総司。これはエスカレーターっていって、動く階段。電気…エレキテルで動いてる」
総司がまじまじと足元を見る。
「エレキテルですか…」
「うん。この照明も、この動いている階段も、あと自動で開く扉も、すべてエレキテル…この国では『電気』って呼ばれてるもので動いている」
総司がベルトをしっかりと握ったまま、周りを見回した。
「階段も扉も動くんだったら、人間は何をするんですか?」
「はい?」
「自分で何もしなくても目的地に行けることになりませんか? さっきの車だって…。歩く必要がなくなってしまいますね」
一生懸命周りを見回している総司の横顔を見た。そう言えばそうだ。京にいるときには、どこに行くにも歩いていた。自分の足しか移動手段が無かったから。
でもここでは車も、電車も、バスもある。建物の中のちょっとした移動すらエレベーターにエスカレーターだ。しかもドアすら自分で開けない。
「たしかに京に居たころよりも歩かないかもね。あまり自分の身体を動かすことはしないんだよ」
総司が考え込んだ。
「ほら、総司。降りるよ。いきなり地面が動かなくなるから気をつけて」
彩乃がすっと総司の横に並ぶと、総司の腕を取った。
「総司さん、ぽんってしますよ。足元、見てくださいね」
そう言って、彩乃は総司と一緒に「ぽん」と声に出して、エスカレーターから降りた。一瞬、慣性の法則で、総司の身体が前に行きかけたけど、彩乃がうまくフォローしている。
さて。洋服一式かぁ。めんどくさい(笑)
「彩乃~。お金を渡すから、総司の洋服、好きなだけ買ってあげて」
総司と彩乃が僕を見る。
「僕は上の階にいるから。一時間後ぐらいかな」
彩乃が顔をしかめた。
「お兄ちゃん。一時間でお洋服なんて、買えないよ」
女の子の買い物はこれだから…。
「いいんだよ。適当で」
「ダメだよ」
はぁ。僕はため息をついた。仕方ない。彩乃に任せようと思ったけど、それだと膨大な時間がかかりそうだ。
「わかったよ」
本当は上の階の本屋に行きたかったのになぁ。ずっと現代の本を読んでないから。
しぶしぶ総司と一緒に洋服売り場に入った。




