第2章 現代探訪(6)
ようやくついたショッピングセンターの前で総司の足が止まった。
「うわ~」
「総司、上向いて口開けてると、鳥の糞が落ちてくるよ」
「えっ?」
慌てて総司が口を閉じる。
「お兄ちゃん、からかわないで。総司さん、大丈夫ですよ。鳥はいません」
彩乃がそう言って、総司の腕をぽんぽんと叩いた。
そう鳥はいない。あの時代ではあちこちで聞こえていた鳥の鳴き声が殆どしない。せいぜい聞こえる鳴き声は、カラスに雀、鳩ぐらいだ。しかも雀は減ってきている。なんか寂しいよね。
別に珍しくもない、わりと大きなショッピングセンターなんだけど、総司にとっては珍しかったらしい。周りをきょろきょろと見回している。春休み中とは言え、平日だからまだ比較的人が少なくて良かった。
大きなガラスのドアを開けて総司と彩乃を先に通す。
さてと。メンズは三階だな。
このショッピングセンターは、一階から三階までがぶち抜きになっていて、長いほうのエスカレーターに乗ると三階に着く。
僕が無意識に長いほうのエスカレーターを選んで乗ると、しばらくして後ろでものすごい音がした。
振り向いたら、総司がエスカレーターに乗りそこなって、ごろごろと下に向かって転がって行っているんだ。でも転がっても、エスカレーターが上がるから、下まで落ちない。
「そ、総司?」
僕は慌てて降っていって総司の腕を掴んで立たせたら、後ろから来た彩乃が同じことを反対側からしていて、総司はまるで捕らえられた宇宙人のようになって一瞬宙に浮いた。
慌てて、僕も彩乃も手を下ろして、総司をエスカレーターに立たせる。
危ない。危ない。
「大丈夫ですか?」
彩乃が総司の顔を覗きこんだ。
「は、はい。なんですか? これ」
総司は緊張がまだ取れない顔のまま、振動している足元を見た。
「エスカレーターですよ?」
彩乃が答えともいえない答えを返す。
そういえば、エスカレーターが導入された当初って、よくお年寄りがスピードについていけなくて転んでたっけ。すっかり見ない光景になったから忘れてたよ。




