第2章 現代探訪(1)
「俊」
ん? 総司の声がする…。
「まだ寝てますか?」
うーん。なんかやけに眠いんだよね。屯所の蒲団にしては、ふわふわして寝心地がいいし…。
「じゃあ、私は外で稽古してきますね」
ああ。朝稽古ね。熱心だね~。
総司の気配がドアを開けて、外へ出て行く。
え? ドア? ちょっと待って。ここは屯所じゃない。
僕はガバッと起き上がった。自分の部屋。ベッドの上だ。隣を見ると、綺麗に蒲団が畳まれている。えっと…。総司? 稽古しに行くって…どこへ?
一瞬考えてから、僕は目が覚めた。まずい。外で、しかも真剣で素振りはまずいよ。
「総司、待った~!!」
早朝から僕の大声が響き渡った。
「え~。稽古しちゃいけないんですか?」
リビングで刀を抱えて、ソファに座った総司がブツブツと文句を言う。
「稽古しなくても、刀を振るぐらいの筋肉だったら落ちないから」
「でも勘が鈍ります」
「まあ、そうかもしれないけど。現代では刀はダメなの。銃刀法っていうのがあって、取り締まられるの」
「じゅーとーほう?」
総司が僕の言葉を繰り返して首をかしげた。ちなみにまだ早朝。彩乃は起きてこない。
「そういう法律があるの」
「ほうりつ?」
そこから説明しないといけないのか。
「今、この国は日本っていう名前で国が統一されていて、そこで日本中どこにも適用される決まりごと…えっと、法度が決められているの」
「はぁ」
「日本にいる人は、大人も子供もどこの国の人も、皆、守らないといけない決まりごと。それを法律と呼んでる」
我ながらいい加減な説明だなぁと思うけど、正式な定義なんて知らないし。まあ、大方間違ってないでしょ。
「法律は大方針を決めた日本国憲法っていうのがあるんだけど、そのほかにも色々細かい法律…決め事があるんだよ」
「えっと幕府が出した武家諸法度と、各藩が出している法度みたいな感じですか?」
「うーん。ちょっと違う。あの時代で言うなら、全部幕府が出してる諸法度で、いろんな種類がある感じで、しかもそれを武家以外も守らないといけない」
「あ~、令みたいなものですか?」
僕は総司の言葉に眉を顰めた。れい? なんだっけ? それ。
その表情をすぐに読み取って、総司が続ける。
「身分問わずに出されたものとして、倹約令や…かなり前の将軍様のときに生類哀れみの令というのがあって、お犬様と呼ばなければならなかったとか、聞いたことがあります」
「ああ、身分問わずっていう意味では、それに近いかも」




