間章 目標作り(1)
------------ 彩乃視点 -----------------
「とりあえず…僕はちょっと出かけてくるから。…夜の散歩。眠れないから、ちょっと現代の東京を楽しんでくるよ」
そう言って、パタンとドアを閉める音をさせてお兄ちゃんが出ていった。
散歩? 一人で? このタイミングで?
なんか凄く不自然。
リビングに残ったのは、ソファで隣あって座ってるわたしと総司さんだけ。
現代のことを勉強しなくちゃいけなくなった総司さん。きっと不安に思ってるだろうなって思ったの。だから「大丈夫です。一緒がんばりましょう」って言おうと思って、総司さんのほうを向いたら、いきなり抱きしめられた。
「そ、総司さん?」
ぎゅって抱きしめた腕がわたしの背中をさぐって、そして首を撫でて、頭の後ろに来たと思ったら、両頬を両手で挟まれる。
首が動かせなくなって…真正面から目が合った。
思わず意図がわからなくて、ぱちぱちと瞬きをしたら、笑われた。
「総司さん?」
近づいてくる顔。キスされる…そう思って目をつぶったら、すぐに唇に温かい感触が落ちてきた。
「彩乃さん。がんばりますね」
「はい」
総司さんがわたしの鼻に自分の鼻を摺り寄せて、唇同士が触れるか触れないかのところで、吐息で言葉をつむぐ。
「あなたと家庭を作るために…がんばります」
その言葉が嬉しくて、ぎゅっと抱きしめ返す。
「彩乃さん。あなたとの子供だったら…きっととても可愛いでしょうね」
総司さんと…総司さんとわたしの子供…。
想像して、なんか胸がほんわりした。きっと一緒にいると楽しいと思うの。
そこまで想像して、はっと気付く。
「総司さん…もしかしてプロポーズですか?」
「はい?」
総司さんが少しわたしから距離を離して首をかしげた。
あ、プロポーズって…日本語じゃないのかな…。
「えっと…総司さんがお父さんで、わたしがお母さん? …になるの?」
通じたかな? 総司さんがぽっと顔を赤くした。
「そうですね。彩乃さん。わたしと…夫婦になりましょう」
古風な総司さんの言葉。優しい響き。
「今は…まだ甲斐性がありませんが…。いつかあなたを妻にしてみせますから」
「はい」
「待っていてくれますか?」
「大丈夫ですよ。150年ぐらい経っても、外見はあまり変わらないってお兄ちゃんは言ってました。だからいくらでも待てますよ?」
わたしは総司さんを気遣って言ったのに、目の前の眉毛が下がる。
「そんなに待たせる気はありませんよ。そんなに待ちたいんですか?」
慌ててわたしは首を振った。
「違うんです…。いくらでも待てますって言いたかっただけです。わたしも、すぐにでも総司さんの…」
言いながら、なんか押しかけているみたいで恥ずかしくなって、続きが言えなくなってしまった。黙りこんで俯いたら、顔を上げさせられて総司さんが嬉しそうに、またキスをしてくる。
唇の温かさを感じながら、ふと思い出した。
「総司さん」
「はい」
「目標を作りましょう」
総司さんが怪訝な目をして見る。




