第3章 新たな出会い(2)
善右衛門さんのところに行くと、本人がにこにこしながら迎えてくれた。
「俊哉さん。いいところに来ましたね。ちょっと見せたいものがあるんです」
そう言って奥の蔵へと連れていかれた。ちょいちょいと手招きされて、中に入ると刀は数振り置いてある。
「どうしたんです?」
「借金の形にね」
善右衛門さんがやっている両替商っていうのは、現代でいうと銀行みたいなもんだ。両替時に手数料をとるのがメインだけど、貸付もやってる。
「お好きなのをどうぞ」
驚いて目を見開いてみると、さぁさぁ、と刀の前につれていかれた。
「あげようと思って、もらってきたんですよ。どれか一振りぐらいは合うものがあるでしょう。そろそろ刀を買わないと…って言ってたじゃないですか」
腰に差している土方さんの刀を、そろそろ返さないとな~と思って、その話をしていたのを覚えていてくれたらしい。
「でも…」
「いいですよ。出世払いしてください」
「いや、出世できるかどうか…」
それどころか、いつまでここにいるかどうか。
でも善右衛門さんがじーっと見ているので、刀に手をかける。
「全部持っていってもいいんですよ。あ、そうだ。彩乃さんの分も持っていってくださいね」
ごゆっくり選んでいてください、というと、善右衛門さんは出ていってしまった。
僕は、ゆっくりと刀を鞘から抜いては物色し始める。実は欲しい刀のイメージはあったんだ。どんな武器もそうだけど、すぐに体得できるものなんてない。だったらいざというときのために、自分が使いやすい得物のほうがいい。
いつのまにか、また蔵に来ていた善右衛門さんに、僕は二振りの剣を差し出した。
「これが欲しいです」
一振りは短めのオーソドックスな剣。これは彩乃用だ。
もう一振りは…
「これは…応永(室町時代初期)のころの刀ですが…こんなにペラペラの刀でいいんですか?」
そう。細くて、まるでレイピアのような刀。それが欲しかった。
「砥ぎすぎて、磨上もされているので、短くなってますし…。刀として斬るには不向きかと思うのですが…」
善右衛門さんが首をかしげてから、横に避けてあった一振りを差し出す。
「これは見ましたか?」
避けてあったので、見ていなかった刀だった。首を振ると抜き出して見せる。
「こちらなどは良いのではないかと思ったですが、いかがでしょうか」
刃紋が派手で、非常に綺麗な刀だった。
「いや、でも…」
言いよどむ僕に、善右衛門さんは、
「両方ともお持ちください。その細いほうは脇差しになさったらいいでしょう」
と言って、彩乃の分も合わせて三本。結局もらうことになってしまった。
「攘夷期限が近づいておりますからね。皆、殺気だっておりますよ」
善右衛門さんの言葉に、ぎょっとする。日付までは覚えていないけれど、幕府が示した外国を追い払う(攘夷)期限があって、それにしたがって長州藩は欧米の艦隊に砲撃をする。その報復を長州藩は受けることになり、長州藩が欧米の強さを肌で感じ始める。
でも善右衛門さんは一連の動きは知らないはず。そして僕が未来から来ていることも、実はまだ話していない。
僕の驚きをどのように解釈したのか、善右衛門さんは、自分の耳に手を当てた。
「私、耳がいいんですよ」
なるほど。
「商売には重宝してます」
そういって、善右衛門さんは軽やかに笑った。




