序章 始まり(2)
思わず額を手の平で覆ってしまった。そうくるか。何の因果で僕たちがここにいるかは知らない。でもまずいね。非常にまずい。ここでの僕たちの動き一つで、この世界が変わってしまう可能性がある。だったら、どうするかな。
「もういい。間者だったら面倒だ。さっさと斬っちまおう」
最初の男のその言葉を聞いて、周りにいたうちの数人が刀を抜いた。さっき文久だって教えてくれた男のギラリと抜き身の刃が上から下りてくる。位置的には肩を怪我させる程度のところだね。死にはしない。でもここで本当の正体がばれるのは面倒だし。斬られたら痛いことは痛い。
だから、振り下ろされる刀を拳で横なぎにした。刃に触れなければ、別にどうっていうことはない。体制が崩れたところでそのまんま男の首を掴んで、羽交い絞めにし、刀を持った手首を押さえる。
「彩乃」
呟くように名前を呼べば、彩乃が男の手から刀を奪った。何気なく持っているように見えるけれど、彩乃は結構できるからね。小さいころから剣道を習わせていたし。隙はない。か弱く見えても、僕の妹だ。
形勢逆転。
文久だって教えてくれた男…、あ~めんどくさい。多分、これが沖田総司。で、最初からごちゃごちゃ言っているのが、土方歳三。文久3年の卯月、4月といえば、幕末だ。そして目の前に銅像とか写真で残っている土方歳三を若くした感じと、あっちには唇が厚くて、目が印象的な男がいて、多分、斉藤一。そうすれば、ここは新撰組の屯所。
壬生浪士組といわれていて、二十数名しかいなかったときだ。
ここで少し考える。逃げ出すのは簡単だ。でも現代に戻れるのか、どのぐらいで戻れるのか分からない。一応、人並みの生活はしたいとなると仕事を探さないといけない。たしか新撰組になってからの給金って、そこそこいいんだよね。きちんと覚えていないけれど、毎年事件が起こるような時代だから、すぐに給金がもらえるようになるだろう。とりあえず頭の中でここまで考えて口を開く。
「あのですね。僕たちは行き先が無いんですよ」
「何?」
土方歳三が目をむいた。沖田総司はなんとか僕から逃げようとしているらしいけど、無理だよ。一応、これでも合気道の有段者。関節技は得意なんだよね。
「それで提案なんですけどね」
僕は考えながら、ゆっくりと口を開いた。