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第1章  帰還(8)

 眷属の命は主に結び付けられる。主が死ぬと、差はあるけれど30年から50年ぐらいで死ぬことになるらしい。主がいれば、それなりに吸血鬼としての長い寿命を全うできる。それで主に殉ずるものもいれば、もうちょっと生きていたいと思うものは、次の主を探す。手っ取り早いのは次の当主だ。


 皆が僕を探していたらしいけれど、こっちはそんなこと知らないもんだから、毎日の生活に必死だった。


 遺産の相続と同時に、僕は沢山の眷属と契約をすることになった。ほとんど皆、父さんが気まぐれで命を助けて、両親の財産を管理したり、父さんの仕事を手伝ったりしていたらしい。それで次は僕を助けようとしてくれている。


 僕としては彩乃のことがあったし、まだ当主としてイギリスに引っ込むのは早いな~と思っていたので、皆に任せたまま、今もここにいるわけだ。


 だから金銭的な意味で、総司が働く必要はなかったけれど、でも働かざるもの食うべからず。自立しない人間を甘やかす趣味は僕にないので、がんばって自分で働けるようになってもらおうと思う。目標があるほうが、がんばれるしね。


 総司と彩乃を見ると、二人で手を握り合っていた。


 ま、いっか。手ぐらい。


「とりあえず…僕はちょっと出かけてくるから」


 彩乃と総司の目が丸くなる。


「夜の散歩。眠れないから、ちょっと現代の東京を楽しんでくるよ」


 そう言って、僕は二人を置いてパタンとドアを閉めた。


 ほんのちょっとだけ、二人に時間があってもいいでしょ。


 僕なりの気遣いだ。



 外はなんとなく肌寒い。三月…向こうだと如月だもんな。田舎とはいえ、道には街灯が灯っていてかなり明るい。両側には家が立ち並び、遠くにはコンビニがキラキラと光って見えた。


「本当に帰ってきたんだな…」


 江戸時代の暗い夜と比べて、昼間のように明るい。そして舗装された道路。たまに走る車。排気ガスの匂い。


 その角を曲がれば、あの何もない時代があるように感じるくらいに、懐かしくて、そして切なかった。


 もう戻れない場所。あのときは、あんなにも150年後の世界が恋しかったのに、今は150年前の世界が恋しい。


『いつかまた会えるよ』


 不意に友人の、アーニーの声が耳に蘇る。


 そうだね。いつか会えるかもしれない。会いたくなったら、たまに時空を渡って来るらしい父さんに穴をあけてもらうように頼むのいいかもしれない。


 僕はなんとなく一人で笑って、そして目的地をコンビニに定めて歩き出した。


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