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第1章  帰還(7)

「あと総司」


「はい」


「君にきちんとした収入ができるまでは、子供を作らないでね」


「えっ」


 総司と彩乃が真っ赤な顔のまま、僕をじっとみる。


「総司も一族になったんだから、彩乃との間に家族を…子供を作ることは可能だ」


 そう言った瞬間、総司は幸せそうな顔をして彩乃を見た。自分の家族を想像したんだろう。彩乃もにっこりと微笑み返す。


「でも自分で養えないうちは、僕はそれを認めない」


 そう言った瞬間に、総司の顔が引き締まって、僕に視線が戻った。


 僕はにやりと笑って、総司に言う。さっきの弱気発言へのお返しだ。


「彩乃と家庭を作りたかったら、必死になって現代のことを勉強して、早く仕事を見つけられるようになることだね。それまでは僕が二人を養うから」


 僕の意図は総司に伝わったらしかった。椅子の上で、ぴっと背筋を伸ばすと、両膝に手を置いて頭を下げた。


「かたじけない」


 ああ。やっぱり彼は武士なんだな。


 頭を上げたときに僕をまっすぐに見つめた瞳は、かの新撰組副長助勤の目だった。きっと彼だったら時空を超えた分も、その努力でなんとかするだろう。


「ま、総司の一人や二人、楽勝だから」


 僕はそういって微笑んだ。



 実際問題、僕の牧師としての収入は多くない。だけど実は一族として相続した分があるから、自由になるお金はかなりある。これは両親が亡くなって、しばらくしてから分かったことだけど、実は一族の財産というのが相当あって、それをイギリスのほうで管理している。


 両親が亡くなった直後は、日本で父さんが経営していた会社は乗っ取られるし、家は借金の形に持っていかれるし、彩乃は赤ん坊だし…で、着の身着のままで働いて、安アパートで暮らしたり、この教会に転がり込んだりした。


 ところが実は大金持ちだったっていう、まるでどっかの御伽噺みたいなオチだった。イギリスの屋敷がまさか自分のものになっているとは思わなかったし。僕はてっきり日本に来たときに処分したんだと思っていたわけだ。実際には処分どころか、財産を含めきっちり運用されていた。


 その代わり、僕の存在が分かったとたんに父さんの眷属が押し寄せてきて、大変な目にあったけど。


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