第1章 帰還(3)
風呂場でも総司は大騒ぎだった。
まあ、ひねればお湯が出るっていうのもびっくりだし、普通の浴槽だけど僕のこだわりで、家を改装した際に足を伸ばして入れるぐらいのものにしてある。こういう風呂ってあの時代で一般家庭には無いよね。
なによりもプラスチックというのが珍しいから、木製でないカラフルな浴槽に、興味をもったらしくマジマジと見ていた。薄い緑のプラスチックにきらきらとしたラメが混ぜてある浴槽だ。別にこれは趣味というよりは、いくつかあったセットのものから、浴槽の形で選んだらこうなっただけだけど。
それから壁にかかった鏡。これも映りがいいからね。自分を映して手を振って確認している。自分の姿にびくびくする姿は怯える猫みたいで、吹き出しそうになった。
おまけにシャンプーにリンス。石鹸。どれをとっても、大騒ぎだ。
「なんですかっ! この泡! この匂い!」
「口開けてると、泡が入るよ~」
仕方ないので、僕も一緒に入って総司の頭を洗ってやっていた。
居住区は数年前に建て直したばかりで、僕らが風呂好きなために、風呂場は比較的大きめに作ってある。だから男二人でも、まあちょっと狭いかな…っていうぐらいだ。
「はい。終わり。湯船に入って」
総司が恐る恐る湯の中に入る。とたんにぼわーっと垢が浮いた。
あ~。お湯を入れ替えないとダメだな。
ピッ、ピッ、ピッと操作して、湯量を一番多くして、上から湯が溢れるように設定した。
その僕の手元を総司が興味深くみている。
「その四角い部分、面白いですね。風呂の絵ですか?」
「これ、コントロールパネルって言って、風呂の温度や湯の量を調整するんだよ」
「こんとろ?」
「コントロール、パネル」
ゆっくり言ってやって、そして総司に見せる。
「ここに上矢印がある。これを押せば、湯量が増える。こっちを押してから、これを押せば、湯の温度が上がる」
「へぇ~」
総司がコントロールパネルに顔をくっつけた。
「ま、そのうちに覚えればいいよ。それよりも次からは一人で入れるように、シャワーの使い方を覚えてよ」
そう言って僕はシャワーの蛇口をひねって、お湯を出すと自分を洗い始めた。
僕も結構汚れてるからね。
自分を洗って、総司が温まったのを見計らって、湯船の外に出す。残ったお湯を見れば、ものすごい垢。湯の花かっていうぐらい浮いている。
うーん。これ、やっぱりお湯を入れ替えたほうがいいな。いくらなんでも現代社会でこの湯に入るのは勇気がいる。これしか湯が無いなら入るけど、いくらでも入れ替えが効くからね。
僕はそのまま栓を引っこ抜いた。自分の身体を温めるのは明日にしよう。今日はとりあえずシャワーでいいや。




