第1章 帰還(2)
リビングに入って、コントローラーを探してテレビをつけると、丁度ニュースをやるところだった。
「うわっ! こんな小さな箱の中に、人が!」
思わず僕は吹き出した。
いや、だってベタじゃない。
総司はこわごわとテレビを見ている。
「総司、中に人がいる訳じゃないんだ。影絵がうつっているようなものだよ」
「影絵?」
「そう。色がついた影絵だと思えばいい。とりあえず中に人は入ってない」
総司がテレビの裏に回って、またまじまじと見ている。
ちょうどアナウンサーが今日の日付を言うところだった。
「良かった~」
彩乃がほっとしたような声を出す。
アナウンサーが言った日付は、僕らが幕末に落ちた日と同じ。つまり現代で時間はほぼ動いていない。数日で四月になる。
僕はちょっとばかりテレビの音が煩くて、スイッチをオフにした。やっぱり現代って煩い。冷蔵庫のモーター音や、遠くに走る電車や車の音、たまに聞こえる飛行機の音、そんなものが全部耳障りに感じる。
ちらりと彩乃に視線をやると、にっこりと微笑まれた。
「これで入学式にいけるね」
彩乃が嬉しそうに僕に言う。うん。笑顔が可愛い。僕は思わず頭を撫でたら、彩乃から止めてよ! と怒られた。
いくつになっても、僕にとっては可愛い妹なんだけど、彩乃としては不本意らしい。
「総司」
「はい?」
「まずは風呂」
僕はそう言って、リビングから続いている台所に行くと、壁についている風呂沸かしのスイッチを入れた。
ああ、楽チンだよね~。
ボタン一つで風呂が沸かせる幸せ。
僕らもあまり綺麗じゃないけど、総司は寝込んでた分、垢が溜まっているし、一番酷い状況だ。髪もばさばさに伸びているし、髭も伸び放題だし。
「彩乃、総司と一緒にいて。総司に電化製品を触らせちゃダメだからね」
「うん。お兄ちゃんは?」
「僕は着替えを持ってくる。まずは総司を風呂に入れないと」
「分かった」
彩乃はにっこりと笑って、僕に手を振った。
部屋を出ようと居住区側のドアに向かったところで、風呂沸かし機が音を立てた。
「もうすぐお風呂が沸きます」
総司が飛び上がる。
「だ、誰ですかっ! 誰かいるんですかっ!」
僕は吹きだした。
総司には悪いけど、しばらく楽しい日々になりそうだ。
何も言わずにドアを出れば、彩乃が
「お湯が沸いたっていうことですよ」
と説明ともつかない説明をしていた。




