序章 目が覚めた後
「それで僕をどうするつもり?」
僕はガチガチにチェーンで縛られながらも、平静を装って訊いた。内心は穏やかじゃない。目の前で総司は血まみれだし、彩乃は檻に入れられている。
「ご協力いただきたい」
日本語にどことなく訛りがある。どこの国の人か知らないけれど、僕にこんなことをしたことを後悔させてあげるよ。絶対にね。
僕は妹や友人にされたことを、そのままにしておけるような穏やかな性格じゃないんだ。自分だけなら出来るだけ穏便に終わらせるけど、周りを巻き込んで売られたケンカは十倍にして買うタイプだ。
「う…」
総司が身じろいだ。多分、傷が再生して意識が戻ったんだろう。
「協力する。だからこれ以上、総司にも、彩乃にも手を出さないで」
「お兄ちゃん!」
檻の中から彩乃が悲痛な声を上げた。
僕はそれを目で制してから、相手に対して視線を戻す。
「総司を彩乃の檻に入れて。彩乃には大人しくするように言うから。総司をそのままにしておけない。協力する代わりに、それぐらいはやってくれてもいいよね」
怪訝な顔をしながらも、相手は檻に入れるなら…と思ったらしい。
「彩乃、大人しくしてて」
そういうと、彩乃が檻の端に寄った。そこへ総司が投げ込まれる。
「総司に…君の血を飲ませてあげて。血を失い過ぎてる」
彩乃は黙って頷くと、総司を抱きしめて自分の首筋に彼の唇を当てた。総司は朦朧とした意識の中で、それでも首筋を認識したらしい。彩乃に食いついた。
「…っ」
彩乃が息を飲む。ちょっと痛いんだよね。
総司はちょっと飲んで、そして身体が復活し始めたらしくて、頭をあげて周りを見回した。
「あ、彩乃…?」
至近距離の彩乃の顔に驚いて、一瞬で身体を離す。
うん。前にも思ったけど、どうやら一族の血はエネルギー変換率がめちゃくちゃいいみたい。少量で元気になるよね。
「さて、言うことをきいてもらおうか」
その声と同時に、僕の前に数人の男たちが立った。
最初に言ったとおり、僕はチェーンでぐるぐる巻きで、今、総司と彩乃は同じ檻に入れられている。
あはは。まいったね。
ま、いいけどさ。
話は数ヶ月前、僕らがこの現代にたどり着いたときに、遡る。




