間章 彩乃の作文(2)
「わたしの家族 緑ヶ丘小学校 四年二組 宮月彩乃
わたしの家族はお兄ちゃんとおじいちゃんです。お兄ちゃんはとっても強いです。
お兄ちゃんは、いつも自分のことをナイショにします。いっぱいナイショがあります。
この作文を書くときも、あれはダメ、これはダメって言われたので書けません。
でもお兄ちゃんはとっても優しいです。
お兄ちゃんは私が小さいときからカッコいいです。いつもいっしょにいてくれます。」
作文を出したあと、職員室に呼ばれた。
「彩乃ちゃん」
担任の森先生が屈んでくる。女の先生なの。
「作文、もうちょっと書いたほうがいいんじゃないかな。ナイショだけだとわかんないからね?」
「でもお兄ちゃんがナイショって」
「お兄ちゃんを見ていて、わかることもあるでしょ?」
「でも…書いちゃダメって」
そう言ったとたんに、先生が肩をつかんできた。
「ね、彩乃ちゃん。なんでもいいの。お兄さんのこと、書こうね?」
なんでこんなに目をキラキラさせて、一生懸命言うんだろう?
よくわからないけど、先生の迫力に、わたしは思わず頷いてしまった。
家に帰ってきて、また作文用紙を机に広げる。白くて何にも書いてない作文用紙。
あ~あ。お兄ちゃんが、ダメっていうから、宿題増えちゃった。
「彩乃?」
お兄ちゃんが顔を出す。
「お兄ちゃんのせいだからね」
思わず言ってしまった。
「え? どうしたの?」
「お兄ちゃんのせいで、作文、もう一回書かないといけないの…」
言ってるうちに、どんどん悲しくなってきた。
「お兄ちゃんが、ダメばっかり言うから、先生がもう一回書いてきなさいって…」
そう言えば、身体が温かいものに包まれる。お兄ちゃんの心臓の音が聞こえる。
「ごめん。彩乃」
わたしは何も答えられずに、下を向いていたら、おにいちゃんがしゃがんだ。
目の前にお兄ちゃんの目がうつる。わたしと同じ、茶色の瞳。
ちょっと外人ぽいって言われる、薄い茶色。
「じゃあさ、彩乃。教会のことを書きなよ。お兄ちゃんの日曜日のこと」
「おじいちゃんの代わりにやってること?」
「うん。それならいいよ」
お兄ちゃんは、にっこりと笑った。




