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間章  彩乃の作文(1)

--------- 彩乃視点 -------------


「わたしの家族   緑ヶ丘小学校 四年二組 宮月彩乃


 わたしの家族はお兄ちゃんとおじいちゃんです。お兄ちゃんはとっても強いです。よく家に悪い人が来るけど、おにいちゃんがやっつけてくれます。


 どろぼうが入るときには、わたしが見つけて、カメラを用意します。おにいちゃんが最初にやられるので、それをしっかり写真で撮るのはわたしの役目です。


 それでお兄ちゃんに、いいよ~っていうと、お兄ちゃんが一瞬にして悪い人をやっつけます。


 せいとうぼうえい っていうのにするために、写真がいるんだって。


 お兄ちゃんは世界で一番すごい人です」



 お兄ちゃんは、わたしの作文を見るとため息をついた。


「あのね。こういうのは書いちゃだめ」


「え? なんで? やっつけた後に、二人で食事をしますって書いたけど、それは消したのに…」


 そう言ったとたんに、お兄ちゃんは頭に手を当てる。困ってるときのお兄ちゃんの癖。お兄ちゃんは、昔、外国にいたんだって。だから少し、お兄ちゃんのすることは、外人っぽい。


 たまに小学校に英語を教えにくるジョン先生みたい。


 外見もちょっと外人ぽくてかっこいい。保護者参観は、お兄ちゃんが来てくれるけど、お友達とか、お友達のお母さんとか、先生も、アイドルに会ったみたいに、キャーキャー言ってる。


「彩乃?」


「はい?」


「問題です。悪い人が入ってくるのが分かっていて、中に入れてるのは何ででしょう」


「ご飯を食べるため」


「正解」


 お兄ちゃんはそう言って、わたしの頭をなでた。


 知ってるよ。本当は入る前から来るのが分かってるの。追っ払えるけど、わざと鍵を開けて、入れてるの。


 教会っていうのは、泥棒が入りやすいんだって。見つかっても大丈夫じゃないかって思うみたい。それでお兄ちゃんは教会を囮にして、泥棒を捕まえて、気絶させて、ついでに食事をさせてもらってる。


 そう。わたしとお兄ちゃんは食事をするの。


 特別な食事。人の血を吸う…でも、それはわたしじゃない。わたしじゃないわたしが、わたしの代わりに人の血を吸っている。



「でも、でもね。家族の話を書かないといけないの」


「おじいちゃんの話は?」


「お兄ちゃんのことがいい」


 おじいちゃんは…優しいし、好きだけど。本当の家族じゃないから。やっぱりお兄ちゃんがいい。


「じゃあ、先週行った動物園のこととか書けば?」


 お兄ちゃんが言ったけど…書いていいのかな?


「お兄ちゃんを見て、動物がみんな怖がってましたって…書いていい?」


「ダメ」


「じゃあ、つまんない」


「彩乃」


「だって、作文は、動物のことじゃなくて、お兄ちゃんのことだよ」


 お兄ちゃんがまた額に手をやる。


「じゃあ、その前に行った遊園地は?」


「お兄ちゃんはいつもキレイな女の人に囲まれてますって書いていい?」


「うっ…いいけど…いや、ダメ。教育上よくない」


 きょういくじょう? 意味がわからなかったけど、ダメみたい。



「お兄ちゃん、ダメばっかり」


「うっ」


「もういい。わたし、勝手に書くから」



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