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間章  末期(4)

「喉が渇いていたら、その辺に転がっている死体から摂取するといい。ここは血液の宝庫だ」


 男がそう言って、俺に死体を投げつけてきた。


 おいおい。軽々と死体を投げるかよ。普通。


 投げられたのは一緒に戦っていた仲間だった奴だ。だが俺はそいつの首筋を見たとたんに、そこが気になって仕方なくなった。

 

「首筋に口を近づければいい」


 色気のある低音に導かれるように、思わず首筋に唇を這わす。男の首筋だっていうのに、そんなことは気にならなかった。


 唇をつけたとたんに、何か温かくてほっとするものが腹に落ちる。


 ウマイ。こんなにウマイものは食べたことがねぇ。


 こいつはなんだ? 


 俺は腹いっぱいになるまで、それをむさぼっていた。そして満たされたところで、気付く。


 俺が抱えているこれは…何だ?


 俺は恐る恐る腕を放した。



 ごとんと音がして、俺の戦友だった奴が地面に転がった。


 …。


 ちょっと待て。どういうことだよ。


「さて、行こうか」


 今の状況を説明できると思われる奴は、俺に背を向けて歩き出していた。


「待ちやがれ!」


 俺は腰に差していた剣を抜いて斬りかかった…はずだった。


 前に居たはずの男が、いつの間にか俺の後ろにいて、俺を羽交い絞めにしていた。そして剣に手をかける。


「もう、これはいらない」


 そういうと、剣を素手で掴んでぐにゃりと曲げた。


 おい。なんだコイツは。


「俺が怒らないうちに、大人しくついてきたほうがいい」


 そう耳元でささやかれて、ぞっとした。言い方は穏やかで、声も変わってない。だが雰囲気が違う。


 上手く言えねぇが、首の後ろの毛が逆立った。俺が誰かに気おされるなんてことあるかよ。


「いいね?」


 男の声に黙って俺は頷くしかねぇ。


 俺は恐る恐る男の背に従いながら気付いた。辺りは真っ暗だ。月もでていやしねぇ。なのに俺には何もかもが見えていた。暗いことはわかるが、まるで昼間みてぇに見える。


 なんだ? 何が起きてるんだ?


 尋ねたいが、さっきの雰囲気を思い出して、喉が絞められたように声が出ない。


 この俺が、だ。


 仕方ねぇ。


 何も説明しねぇ男の背中を追って、俺は黙々と歩いていった。


 ここまでお読みくださってありがとうございます。幕末編本編は一旦ここまでとなります。


 ストーリーのきっかけとして見た資料の中に、新撰組の平隊士の一人が剣を構えている写真が残っているのですが、その姿の鋭いこと。幹部はもっと強かったでしょうから、一体どれぐらい彼らの時代は過酷だったんだろう…と思いました。その中で楽に生きるために、最強にしてしまえ…と思って俊哉と彩乃は吸血鬼にしてみました。そして俊哉は二つの大戦を経て、かなり戦闘経験があるという設定にしたのも、同じ理由です。


 近藤さん、土方さんをはじめとする新撰組幹部はもちろん、中村さんや馬詰親子、八十八くんたち隊士も、みな実在の人物です。だから困ったんですよね。あまり変なことができないなぁと。


 人物に関する部分は、いろんなところで調べ切れなくて想像が入っていますが、ご容赦を。


 人物像を描く上で苦労したのが山南さんでした。この方、非常に強い尊皇攘夷思想の持ち主でいらしたようで…。一体、どんな考え方をしていたのだろう…と自分なりにかなり悩みました。作中で彼が語っている思想は当時の尊皇攘夷派の王道的な考え方だったらしいです。


 この後、間章(幕末へ落ちる前の彩乃の話)を入れてから現代編へと移ります。更新スピードは少しばかり落とさせていただきます。また、幕末編へのレビュー、感想、コメントなどをいただけると嬉しいです。


3rd May, 2015 沙羅咲 拝

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