間章 末期(2)
しばらくして、また足音がする。
「おや。生きてる」
低いが、やけに色気のある声が俺の頭の傍で聞こえた。
「目、開けられるかい?」
開けられたら開けてるだろうよ。くそったれめ。
俺が心の中で悪態をつくと、聞こえていたかのように答えが返ってきた。
「開けられないのか」
そして俺の目をふんわりと何かが横切る。そのとたんに瞼が軽く動くようになった。
目を開けば、すぐ傍にあるのは、暗闇に浮かぶ青い瞳。
うぉっ。
びっくりするじゃねぇか。
なんで普通にこの国の言葉を喋ってるんだよ。こいつ。
「しぶといね。君」
青い瞳が面白いものを見るように細められる。
俺は見せもんじゃねぇぞ。
「声は出ないのか」
出ねぇよ。
青い瞳が少し離れて、俺を上から見下ろした。俺からも相手の顔が見える。
っていても、異人の顔は皆同じに見えるんだけどよ。
だがどっかで見たような顔だ。
「どっかで見た顔だ」
うぉっ。びっくりした。俺じゃねぇよ。
俺が思ったことと同じことが、こいつの口から出やがった。
青い瞳がもう一回近づいてくる。
近けぇよ。
男に迫られる趣味はねぇ。
「君、新撰組の鬼の副長か」
だったらなんだよ。
「生きたいかい?」
生きたいに決まってんだろうよ。
「死にたくなかったら、瞬きをして」
なんでこんな奴にそんな意思表示をしなきゃなんねぇんだよ。
だが俺は目が乾いていて、ついうっかり瞬きをしちまった。
その瞬間に青い瞳がまたにやりと笑う。
「声、出ないんだよね?」
出てたら喋るだろ。普通。
男の手が俺の顔に近づく。何をするかと思ったら、つるりと喉を撫でられた。
とたんに喉が軽くなる。
「これで声が出る」
「あ」
あ、出た。
「てめぇ、何もんだ」
そう俺が言うと、青い瞳の奴は眉を顰めた。
「口、悪いんだね」
いや、それ、答えじゃねぇだろ。
「ああ。息子のいい遊び相手になりそうだ」
「息子? ガキの相手は御免だぜ」
俺を遊び相手にしようとは、不届きな奴だ。
「ガキじゃない。今100歳」
「あぁ?」
「あ、違うな。250歳越えているか」
おい、待てよ。そりゃ、息子じゃなくて、じじぃだろうが。っていうか、なんだよその年齢。人生50年っていうだろうが。ぜってぇ、からかっていやがる。
「俺が君を連れて行ったら、あいつが困った顔をすると思うんだ。それを想像すると楽しくて」
男が色気と深みのある声で、くつくつと笑う。
話がかみ合わねぇ。




