第27章 青い薔薇(8)
「こうなった以上、君をここに置いていくわけにはいかない。一緒に来てもらうよ。とりあえず、僕から血を飲んで」
僕は目の前に再び腕を出した。総司がじっと僕の腕を睨む。
「信じられません」
「信じられなくても、喉、渇くでしょ」
「でも…」
「いいから。僕の腕に口をつけてごらんよ。そうしたら、その先は本能で動くから」
総司の口に無理やり腕を押し付けると、総司の瞳の色が赤く変わった。そして僕の腕に牙を立てる。
痛い…。
あ~、痛い。
もういいよね? もういいよね?
「総司~。痛い」
はっと総司が唇を離した。そしてまだ血が出ている僕の腕をまじまじと見つめる。
「本当に…本当に?」
はぁ。
僕はとりあえず自分の腕をぬぐってから、袖をかぶせると、総司に言った。
「現代に戻るから。持って行きたいものだけ用意して」
総司は蒲団から立ち上がると、ぐるりと見回して刀を持った。彩乃が贈った鍔がついている。刀の外見は変わっていたけれど、鍔だけは変わっていなかった。
「これだけあれば…」
僕は苦笑する。総司もやっぱり刀なんだ。
「青い薔薇は君かもしれないな」
僕がポツリと言えば、総司が怪訝な顔をした。
「なんですか?」
「いや、君はありえないって話。馬鹿総司」
「だから、馬鹿、馬鹿、言わないでください」
「じゃあ、アホ、マヌケ、たわけ、浅慮、軽率、考え不足」
「うわー。どれだけ人を罵倒する言葉を知ってるんですかっ!」
「軽はずみ、不注意、うかつ、ドジ、おろかもの」
「言葉を変えればいいってものじゃないです! 全部同じ意味じゃないですか」
「もう。お兄ちゃん、酷い」
彩乃が参戦してくる。
「総司さんをいじめないで」
彩乃の顔は明るかった。ほんの少し涙ぐんでいて、でも笑っていた。
うん。一族に加わってしまったのは誤算だけど、総司が死ぬのを見送るよりはいいよね。一緒に現代に行けるんだし。
僕は総司に言い続けていた言葉を止めて、ひょいと肩をすくめると、縁側から庭へ降りた。午後の陽の光が辺りを柔らかく、明るく照らしている。
「行くよ。二人とも。早くこないと置いていくからね」
そう言って、戸惑いながら歩き出す総司と、それを助けるように腕を貸す彩乃を見て、僕は入ってきた裏木戸を出て行くために開けた。
現代についたら、また賑やかになりそうだな~と思いながら。




