第27章 青い薔薇(7)
僕の疑いを確信に変えるように、目の前で総司の痩せこけた腕に筋肉がつき、肉がつき、そして肌が張っていく。
彩乃が目を丸くした。
そして総司のこけていた頬がふっくらし、血の気が戻る。それは唐突に終わりを告げた。
なんてこった。思わず僕は頭を抱えた。
総司がうっすらと目を開く。
「あれ? 俊?」
声まで元通りだ。もう掠れてもいない。そして自分の両手を見て、目を丸くする。
「あれ?」
あれ? じゃないよ…。
「馬鹿総司」
僕は総司の頭をはたいた。
「痛い! 病人に何をするんですか!」
「もう病人なんかじゃないよ」
え? という顔をして、総司は自分の身体を見た。筋肉に覆われた胸板。健康な成人男子そのものだ。
「一体…」
僕は渋々自分の腕を突き出した。
「はい」
総司が首をかしげる。
「喉、渇いてるでしょ?」
総司が喉に手をやってから、首をかしげた。
「そういえば…」
僕は思わずため息を吐きだす。
「飲んでいいよ。人間、調達できないし」
「え?」
「一族へようこそ。馬鹿総司。下手に僕の諱なんて呼ぶから…契約が成ってしまった」
総司と彩乃が同じように目を丸くして僕を見た。
「だから、総司、君は僕の眷属になっちゃったの。この馬鹿」
「いや、だからって、馬鹿、馬鹿、呼ばないでください」
「これ、馬鹿以外の何者でもないよ」
そう、僕は思い出した。
僕らは数年かけて、契約成立の条件を整えてしまったんだ。
「最初は池田屋。僕は君を助けるために、君の…」
人工呼吸のことを言いたくなくて、僕は言葉を変えた。
「とにかく、君の血を僕は飲み込んじゃったの。別に食事として吸ったわけじゃない。君が血を流してたから、不可抗力だった」
「え? だって、あの日、俊は一階で…」
「二階に行ったよ。君を助けにね。君が見たのは幻じゃない。僕本人。ついでに、君は僕の血を飲んでる。これも無意識だから、不可抗力だ」
そう。僕は総司に噛みつかれた。そして僕は君の諱を呼んでしまって…。
「それにさっき僕は君と居たいと思ったし、君も僕と居たいと思った。最後に君は仕返しに僕の諱を呼んだことによって、契約は成立してしまった。馬鹿総司。おかげで君は、僕らの一族の仲間入りだ」
総司の身体からへにゃにゃと力が抜ける。




